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超醒の救世者  作者: ミライ
1章
8/22

迷子の誠志

「どうしたものか…」


 誠志(せいじ)が迷ってから、十数分。むやみやたらに動くわけにもいかないので、ひとまず来た道を戻ってはいるものの、一向に元いた場所に戻れずにいた。誰かに連絡しようにも、連絡先を持っていないのでそもそも話にならない。

 これからどうするべきかと誠志が頭を抱えていると、後方から一つの気配が近づいてくる気がした。その証拠に、足音がだんだん大きくなっている。今まで人っ子一人いなかったこの場所にいる人物、それすなわち…この状況を作った張本人である可能性が高いと、誠志は瞬時に察した。


「どうしたんですか?」


 女性の声…いや、男性の声?誠志は振り返っていないので、声だけで性別を判断するのは不可能であった。声をかけてきたということは、やはりこの人物は誠志に用があるのだろう。それも、人けのある場所ではダメな…。


「どちらさまですか?」


 無視する道もあるが、相手が超能力者である可能性は高い。追いつかれるか、最悪の場合捕まってしまうだろう。誠志は、逃げても振り切れないと感じ、ここは対話に応じることにした。


「いや、迷っているように見えたから」

「そうですね、実は行きたい場所があって…」


 謎の気配は近づいては来ない。誠志は、振り返ろうと思ったが、なかなか勇気が出ずにいた。そもそも、夜外出すること自体が珍しかったため、こういう場合どうするのが最適解か誠志は知らなかった。本来は、無視するのが一番良いのだが、この世界でそうはいかないのは前述した通りであった。


「なるほど、それじゃ案内するのでついてきてください」


 そう言うと、謎の気配がだんだんと遠ざかっていく気がした。ついていくか、ついていかないか…答えは決まっている。ここでついていかなければ、おそらくこの空間からはでられないだろう。ならば、迷っていても仕方ない。今は、謎の気配の目的を知るのが先だ。

 誠志は思い切って、謎の気配を視界にとらえた。シルエットは、男のようにも女のようにも見えた。顔はというと、暗闇に溶け込んではっきりとはわからなかった。


「あなたはここに来て、どのくらいですか?」

「え?え~と…」


 唐突な質問。誠志は、どう答えるか一瞬迷ってしまった。この質問が意味しているのが、この場所に来てからなのか、世界に来てからなのかを決めきれずにいたからだ。しかし、狙って誠志に接触してきたのであれば、おそらく後者であろう。いや、そうとしか考えられない。


「ついさっき…ですかね」


 どちらともとれるような返答。誠志は、駆け引き何てしたことはなかったが、ひとまずこれで様子を見ることにした。謎の気配は数秒沈黙し、すぐさま口を開いた。まるで、初めからなんと言うか分かっていたかのような、早さだった。


「変なこと聞いてごめんね。あ…あと、敬語はいらないから」

「あ…そう?」


 誠志は、初対面の人や女性、家族・友人以外の人などには決まって敬語を使っていた。そのほうが、距離も近くなりすぎず、無理に自身を偽る必要がないからだ。そうやって生きているうちに、違和感がないくらいには話せるようになったと誠志は自負していたのだが…謎の気配にはものの数分でバレてしまったようだ。いや、それとも…。


「それで、楽しめてる?」

「…何を?」

超能力開発(P D P)を受けたんだろ?」 


 超能力、ほんの数時間前に誠志が持ちえないとされたものだ。謎の気配が、誠志の正体を知っているのならこの質問の意図をくみ取れない。

 そもそも、何者かの意思よって呼ばれたのなら誠志にはその者が欲する超能力があるはずだ。ないとわかった今、別の理由を考える必要がある。謎の気配がその者の張本人か、協力者であるならば誠志に超能力がないことを知っているはずだ。つまり、この質問には別の狙いがあると考えてよい…のだが、誠志にはそれを察しきれずにいた。

 また、関係なかったとしても、謎の気配は誠志が超能力開発(P D P)を受けたことを知っていた。少なくとも、たまたま誠志に声をかけてきたわけではなさそうだ。


「いや、俺に超能力者の才能はなかったよ」

「え?!そう…か。それは、申し訳ないことを聞いた」


 謎の気配は、歩む速度を変えずに淡々とそう言った。口調も声色もぐるぐると変わりゆくが、誠志はいつも通りに受け取っていた。むしろ、心地いいぐらいに。

 この時の誠志は、無意識に超能力がないと言っていた。まだそうと決まったわけではないのに、超能力者だった場合バレるとまずいと、直感的に思ったのかもしれない。


「それで、これからどうするつもりなんだ?」


 これからどうするか、誠志が今最も考えるべきことだ。今の目標は、学生治安維持委員会(S M C)に入ることだが、入った後のことはまだ考えていない。もし元の世界に戻れなかったら、この世界でずっと暮らしていくのか。元の世界には両親も友人もいる。心残りがないわけなかった。


「そう…だな…」


 即答はできない。人とのつながりが一旦すべて切れた誠志にとって、今を生きるのが精一杯だからだ。それでも、一つだけ言えることがある。それは…。


「とりあえず、後悔のないように頑張るよ」


 見知らぬ場所に飛ばされて、一人になって、心細くないわけがない。でも、寂しがる前に手を差し伸べられて、今日を何とか過ごすことができそうなところまできた。少人数とはいえ、この世界での知り合いもできた。

 生きるすべを持たず、超能力という未知の力がある世界で、誠志が天寿を全うできるかはわからない。だからと言って、無気力で過ごすのもおかしな話だ。

 向こうの世界でもっとやっておけばよかった、なんて今考えてももう遅い。もし、元の世界に戻れたとして、この世界でできた知り合いをすぐに切り捨てられるわけではない。その時、後悔ないと胸を張って言えるように生きることが、今の誠志の根幹にある目標だった。


「そうか…さ、着いたぞ」


 謎の気配はそう言って、左の方向を指差した。視線の先には、目的地のコンビニがあった。誠志が目印にしていた看板も、奥に少しだけだがしっかりと見える。 

 最後まで目的は分からなかったが、目的地にたどり着けたのも事実。誠志はお礼をしようと、視線を元に戻した。


「ありが…」


 しかし、その先には誰もいなかった。周囲を見渡しても、人はいれど同じ人物ではないことは一目瞭然であった。

 誠志が立ち尽くしていると、また聞き覚えのないチャイムが聞こえてきた。高校生の、帰宅時間だ。誠志は急いでコンビニに駆け込み、目的の商品を買って今度は道を間違えないように、周囲を確認しながら帰路へと着くのだった。

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