学生治安維持委員会
「お茶どうぞ」
「ありがと、莉穂」
「ありがとうございます」
誠志は、目の前に置かれたカップを手に取って、一口いただいた。特に変わったことはなく、誠志も飲んだことのある味だった。超能力があるからと言って、食べ物や飲み物までは、あまり影響していないようだった。
「それで、学生治安維持委員会について知りたいんだったわね。そもそも、なんで学生治安維持委員会があるのか分かる?」
答えは簡単には出ない。この世界にも警察があるのは分かっているため、学生の組織を作る必要はない。それでも、存在している理由。それは…。
「超能力…ですか」
先ほどの愛月の発言にヒントはあった。超能力者なら、一部の試験をスルー出来る。ここから、学生治安維持委員会は超能力者を欲していることが読み取れる。いや、欲しているのではなく、超能力者でないとそもそも入れないのだろう。スルー出来るということは、一部例外がありそうだが。
「そうね。未来都市には、およそ二百万人の超能力者がいるの。そもそも、警察だけじゃ対応しきれないってのもあるけど」
「あるけど?」
「三十代を過ぎると超能力が使えなくなるのが、一番の要因ね」
「使えなくなる?!」
「正確に言えば、使っちゃダメな体になるってことよ」
愛月曰く『ナスラ』保有量は、年齢が上がるとともに減少する傾向にあるらしい。保有量が少なくなるからと言って、超能力の発動に必要な『ナスラ』が減るわけではないので、単純に数回使うだけで枯渇状態になってしまうということだ。そして、そうなってしまえば心臓にとてつもない負荷がかかり、命の危機に瀕してしまう。だから、使ってはいけないのだそうだ。
「なるほど、つまり大人の超能力者は少ないということですね」
「えぇ、そこで白羽の矢が立ったのが、私たち学生ってわけよ」
学生なら、すぐに超能力が使えなくなる可能性もない。それに、未来都市の学生人口は約六割強のため、人員の確保も容易だという理由もあった。
だからと言って、すべての事件を学生に任せるわけではなく、基本的には警察の方で処理をして、必要な時に援助をするという形だそうだ。先ほど管轄ではないと言ったのは、ひったくり犯が超能力者ではなかったからだ。
「それに、学生治安維持委員会だけが超能力者に対抗する組織じゃないわよ」
「他にも、あるんですか?」
「もちろん、超能力者の大人で構成された組織もあるわ。ずばり、超能力者専門警察(Psychic Specialist Police)よ」
超能力者専門警察、超能力者のみで構成された警察組織であり、超能力者が関与する事件を中心に対応する組織だ。しかし、大人に超能力者があまり多くないこと。それに伴って、超能力者の犯罪は学生が多いこと。以上より、基本的には学生治安維持委員会が、対応することの方が多くなるのだ。
「と言っても、私自身超能力者専門警察を直接見たことはないんだけど…どう?今の話を聞いても、まだ学生治安維持委員会に入る気はある?」
「もちろんです。もとよりほかに、選択肢はありませんから」
「わかったわ。今日はもう遅いから、その件についてはまた明日にでも、話しましょう」
愛月はそう言うと、空のカップを持って給湯室のほうに歩いて行った。これで、後は試験に受かれば晴れて誠志も学生治安維持委員会に入れる。入れさえすれば、これからここで過ごしていくことについては問題ないだろう。
しかし、今最も重要なことはそれではない。今最も重要なこと。それは、家とお金だ。家に関しては、学生治安維持委員会に入れれば学生マンションが使えるらしいので、重要度は低い。それよりも…。
「お金、どうすっかなぁ」
誠志は、自身が持っていた財布を見ながらぼそりと、そう呟いた。買い物に行く途中だったので、約二万程度は持っている。しかし、それだけでは明らかに心もとない。学生マンションも、お金がかかるかもしれない。その前に、学生治安維持委員会に入るまでどこで過ごせばいいかもわからない。食事も、家がなければ外食するほかない。などなど、金銭面の悩みは絶えず…。
「はぁ」
残念なことに、今の誠志に解決策を考えるほどの余裕はなかった。
「どうしたの、誠志?何か困り事?」
「き、霧河さん?!聞いてたんですか?!」
「いや、ため息をついてたから何かあるのかなって」
「えぇと」
誠志は、お金のことを話そうか迷っていた。どこぞの馬の骨かわからない自分のために、色々してもらっているのに、さらに迷惑をかける訳にもいかないと思ったからだ。しかし、基本的に試験を受けるのにはお金がかかる。お金がなくて、受けられませんでした…なんてことになったら、もっと迷惑をかけてしまうだろう。
「実は、お金がなくて…」
「あぁ、そう…よね」
愛月は、誠志が孤児であることを思い出した。誠志の経歴は、ほとんどないようなもので、唯一分かっていることと言えば、孤児院をすでに出ているということ。それも、誰かに引き取られてではなく追い出される形で。そのため、誠志は学生であるにもかかわらず、一人で家もなく生きていけない…ということになっていたのだ。
「一応、学生治安維持委員会に入れさえすれば、給料も出て、かなりの優待を受けられるのだけど…試験があるのは少し先だし」
家の問題は試験を受ければ解決できて、今重要な問題は試験を受ければ解決できて…。結局、どっちにしろ誠志が直面する問題に対する解決策は、学生治安維持委員会に入らないといけないらしい。試験の日付は分からないが、直近にはなさそうだ。それに、近すぎても誠志の対策不足で、落ちる可能性もある。
「そうですよね」
「あ、あの~」
頭を抱える二人に声をかけたのは、お茶を淹れ終えて二人の話を遠くで聞いていた莉穂だった。
「どうかした?莉穂」
「その件なんですけど、私たちから依頼するというのはどうでしょうか?」
「そうね!その手があったわ!」
「依頼?」
行き詰りそうになっていた誠志の抱えた問題も、莉穂の発案で希望が見えてきた。しかし、話を聞く限りでは、まだ安泰とはいかなそうだった。




