これから
二人は、学生治安維持委員会第五区画支部に着いたのは、日が落ち始めようとしている頃だった。
「あ!おかえりなさい支部長!」
「お疲れ様、莉穂」
「えぇと、そちらの方は?」
「紹介するわね…」
浅田 莉穂、学生治安維持委員会第五区画支部の一員で、今は巡回から戻ったところだった。誠志は、来た時に愛月しかいなかったことを不思議に思っていたが、しっかりとほかのメンバーがいて一安心した。一人しかいないと考えること自体がおかしいのかもしれないが、こちらの常識が分からないので、もしかしたらは仕方のないことだった。
「俺は、蒼井誠志です。よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
「さ、自己紹介も済んだことだし。莉穂、お茶入れてちょーだい」
「はーい」
莉穂はそう言って、給湯室に入っていった。莉穂以外のメンバーは、今はいないようだ。今日の日付は元の世界と変わらず、土曜日なのでおそらく休みのメンバーが多いのだろう。などと、一人推察していてもどうにもならない。
愛月と誠志は、向かい合って座るとこれからのことについて話し始めた。
「さて、誠志のことなんだけど」
「行方不明ってことは、警察にでも行けばいいんですか?」
「いや、その手続きは学生治安維持委員会でも出来るから、後でやっておくわ。それよりも…」
愛月はPCを操作して、ある画面で指を止めてそれを誠志に提示した。そこには、蒼井誠志が行方不明であること。そして、孤児であることが書かれていた。
「孤児?」
「えぇ、誠志の両親は幼いころに亡くなっていて、その後孤児院に入ったそうよ。でも、そこからの経歴はあまり詳しくは書かれてなくて…」
誠志には、ちゃんと両親も祖父母もいる。前の世界では、高校進学に伴って一人暮らしを始めたが、毎月の仕送りもしてくれていたし、長期休みや年末には帰省して、親子団欒の時間を過ごしていた。
このことからも、この世界の誠志は存在しない可能性が高くなってきた。孤児の誠志は、誠志がここに来るにあたって、準備された存在。もしそうでないのだとしたら、今も行方不明ということになる。そうでなく、架空の存在であってほしい。誠志はそう願うことしかできなかった。
「それじゃ、家もないですか」
「そうね。だから、誠志に超能力開発をしてもらったの」
「?」
「超能力者なら、一部の試験をスルーして学生治安維持委員会に入れるの。学生治安維持委員会専用のマンションもあるから、そこを使えればどうかなって」
なぜあの時、愛月が超能力開発を勧めたのか。その理由が誠志には謎だったが、今の話を聞いて腑に落ちた。家がないことは、質問の時に分かっていたのだろう。
「それで、超能力開発を?」
「えぇ、でも…誠志に一つ謝らないといけないことがあるの」
「謝らないといけないこと?」
「超能力は、いいことばかりじゃないの」
超能力を使うために必要な『ナスラ』は、中毒性が高い成分らしい。通常時は、空気中から適切な量を吸収するため問題はないが、超能力を酷使して一時的に体内の『ナスラ』が枯渇してしまうと、心臓が生命力を削って『ナスラ』を生み出してしまうそうだ。その状態が続くと、命にかかわる重大な事態となってしまう。
「だから、呪いなのか」
常時発動する超能力は『ナスラ』を消費し続ける。だから、枯渇状態が続いてしまい命の危機に瀕しやすいのだろう。誠志の場合はどうだろうか。体内に『ナスラ』が存在しないと言われたが、吸収と排出が同時に行われているとも言われた。今のところ、命を削っている感じもしないし、実際がどうなのかはわからない。おそらく、これを聞いて愛月は謝らないといけないと思ったのだろう。
「ごめんなさい。私、ちゃんと確認もしないで」
「いや、大丈夫です。どっちみち、超能力の話を聞いたら超能力開発をしてたはずですし」
超能力が当たり前の世界で、超能力を持たない人間がどう生きていくのか。先の話は、超能力が見つかってから時間がたったのちに発覚したことだろう。だから、今は超能力を得ようと思わない人もいるはずだ。その人たちが、未来都市でどう過ごしているのかは分からない。上手くやっていたとしても、誠志が同じようにできるかはわからない。だから、どちらにせよ超能力開発は、誠志にとって生きるために必要なことだ。後悔なんてするはずがなかった。
「それよりも、学生治安維持委員会について聞かせてください」
「え?ということは」
「はい、俺も学生治安維持委員会に入れてください」
この世界に飛ばされた理由は分からない。偶発的なのか意図的なのか、どちらにせよ何か意味があるはずだ。だけど、目的もなしにただいるだけじゃ意味がない。誠志は、学生治安維持委員会として未来都市に関わり、真実を知ろうと考えていた。その道がどれだけ険しく、長いものであっても。




