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超醒の救世者  作者: ミライ
1章
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スペースアビリティ:サスペンション

「正確に言えば、誠志君の体内にある『ナスラ』は、差し引きゼロと言ったところなんだ」

「差し引…ゼロ?」

「あぁ」


 真古馬(まこば)さんが言うには、超能力開発(P D P)は成功し、誠志は空気中から『ナスラ』を吸収できているそうだ。しかし、なぜかはわからないが吸収した量と同じ量を排出しているらしい。そして、それが秒間訳千回行われているため、実質的に誠志の体内に『ナスラ』が存在しないのだ。


「そんなことが、あるんですか?真古馬さん」

「私も初めて見る現象だ。これが先天的体質か、それとも超能力によるものなのかはわからないが、現状はどうすることもできないね」

「超能力だったとしても、今のままじゃ」

超能力開発(P D P)前と、特に変わらないだろうね」


 二人は超能力開発局(P D P B)を後にして、学生治安維持委員会(S M C)第五区画支部に戻ることにした。真古馬さんが言うには、誠志についてはまだ詳しく分からず、準備が必要なので明日もう一度来てほしいとのことだ。とりあえず、まだ可能性がゼロになった訳ではないが、もし今の状況が誠志の超能力によってもたらされているものだとしたら、何の使い道もないハズレ超能力ということになる。


「霧河さん、常時発動する超能力ってあるですか?」

「どうしたの?急に」

「いや、もし俺の超能力が真古馬さんが言ってたのだったら、それって俺の意思に関係なく発動してるってことですよね?」

「そうね…」


 「超能力を扱う」と愛月が言っていたという点から、少なくともすべての超能力が常時発動しているわけではないのだろう。それに、もし常時発動する超能力があるのだとしたら、誠志の超能力についても何か分かるかもしれない。だから、誠志はこのことを愛月に聞いたのだ。


「実際に見たことはないけど、聞いたこと話あるわ。そういう超能力は、()()と呼ばれてるって」

「呪い…か」


 おそらく、愛月の言葉からも分かるように、常時発動する超能力自体が珍しいのだろう。そして、悪いものばかりが目立った結果、呪いと呼ばれるようになったと…そう予測できる。そう考えでもしないと、もし誠志の超能力も同じだった時、自分をなんと慰めればいいのかわからなかった。


「べ、別に気にすることじゃないわよ…」

「大丈夫です、まだそうと決まった訳じゃないですから」


 会話が途切れてしまった。話す内容がなくなったからではなく、完全に気まずくなってしまったからだ。話題をそらそうにも、何を話せばいいのか。愛月は思考を巡らせていたが、答えは思いつかなかった。

 このままいけば、後五分程度で学生治安維持委員会(S M C)第五区画支部に着くだろう。別にそれはいいのだが、着いてからもこの雰囲気だと、これからどうするかなどの話し合いが進まない。などと愛月が考えていると…。


「きゃぁぁぁぁ!!ひったくりよぉぉ!!」

「?!!」


 二人が交差点に差し掛かった時、右手の方から女性の悲鳴が聞こえてきた。その方向に視線を移すと、倒れこむ一人の女性とこちらに向かってくる一人の男の姿が見て取れた。おそらく、近づいてきている方がひったくり犯だろう。


「誠志!私の後ろに」


 愛月は、誠志を自身の後ろに立たせると、両手を開いてひったくり犯の前に立ちふさがった。


学生治安維持委員会(S M C)よ!窃盗の現行犯で、あなたの身柄を拘束するわ!」

「へっ!学生風情が!俺の足の速さをなめるなよ!」


 ひったくり犯は、臆することなく、速度を上げて迫ってきた。愛月はため息をつくと、右手を前に突き出した。瞬間、ひったくり犯の動きがピクリとも動かなくなった。


「よし!確保!」


 そこからの手際の良さは、さすが学生治安維持委員会(S M C)支部長と言ったところだった。警察を呼んで、身柄を引き渡して、その後の引継ぎなどもろもろ…誠志はただ見ていることしかできなかった。

 数分後、すべての引継ぎを終えた愛月が誠志のもとに戻ってきた。


「ごめん、待たせたわね」

「大丈夫、全然待ってないですよ。それにしても、さっきのが…」

「そう、あれが私の超能力」


 『スペースアビリティ:サスペンション』効果範囲内にある物体の動きを停止させる。これが、愛月の超能力だ。これを使って、近づいてきたひったくり犯を捕まえたのだ。

 この世界に来てから、始めて見る超能力。想像していたものとは違って、派手なものではなかったが、逆にそれが誠志に超能力とは何なのかを理解させる良い材料となった。


「すごいです、あんな奴に臆さず立ち向かうなんて」

「こういうのは、学生治安維持委員会(S M C)の管轄じゃないんだけど、今回は緊急だったからね」

「そうかですね、こういう場合は警察を呼ぶのが普通ですよね」

「そうね。これを機に、戻ったらこの都市の治安維持組織についても知っておく?」

「はい、そうします!」


 気まずい雰囲気も、いつの間にか払拭されていた。愛月の超能力。さらっと流したが、もしこれが犯罪に使われたらと思うと恐ろしいこと極まりない。それは、誠志が身をもって思い知ったことだ。超能力は、使い方次第で利器にも凶器にもなりえる。もし誠志が超能力者だったとしたら、それをしっかりと考えないといけないのだった。

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