超能力開発局
「どう、分かった?」
「あ、あぁ」
誠志は、今説明されたことを整理するのにかなりの脳のキャパを割いていた。超能力は、前の日本でも漫画やアニメで見たことがあったのでなんとなくイメージできた。だが、超能力者を育成するために茨城県と千葉県の一部を未来都市として造り変えたのは、信じがたかった。それでも…。
「教えてくれて、ありがとう」
「そう、だったら本題に入るわ。まず、あなたの名前と住所と…」
それから誠志は、自分の答えられる範囲で彼女の質問に応じていった。質問時間は、およそ五分もなかった。誠志が答えていくうちに、信じられない事実が浮き彫りになっていったからだ。
「あなた、蒼井誠志なの…?!」
「え、えぇ」
「そんな、ありえない」
「ど、どうかしたんですか?」
彼女は誠志の質問をPCに打ち込みながら行っていた。そして、その都度メモを取るか何かを調べるかしていたようだった。おそらく、個人情報管理システム的な何かで誠志のことを調べているのだろう。その結果が、彼女の反応だ。
「あなた、昨日あった山の崩落に巻き込まれて行方不明になってて…」
「え?!」
なぜ「ありえない」と言ったのかは分からないが、不思議な点が二つある。まず、この世界に誠志と同姓同名の人物が存在しているということ。そして、入れ替わるように誠志がこの世界に飛ばされた。行方不明ということは、この世界の誠志が別の世界に飛ばされたのか、それとも…。兎に角、タイミングがちょうどすぎることからも明らかに何かの意図を感じざるを得なかった。
「どうしてこんなところに。この山って第十四区画よね…第五区画と真反対なんだけど。それに、その身なり…どうみても歩いてここまで来たように見えない…」
ギリギリ聞き取れるくらいの早口で、彼女は独り言を小声で発した。彼女の発言から察するに、行方不明になった場所がここから離れすぎているのだろう。未来都市の大きさは分からないが、一日では移動できないと断定することを見るに、かなりの大きさなのだろう。それに、今の誠志の身なりは清潔そのものだった。服も特に汚れていないし汗もあまりかいていない。一晩中歩き続けた人間には、全く見えないだろう。
実際は全く違うのだが、誠志にこの状況を利用しない手はなかった。
「あ、あの~」
「何!…あ、ごめんなさい。どうかしました?」
「もしかして、記憶がないのって…」
誠志は、記憶喪失の原因を山の崩落に巻き込まれたせいにした。どうして身なりがきれいなのかと言われれば、第五区画に来るまでの記憶もないという、苦しい言い訳しかできないが、今はこうする以外に方法はなかった。
彼女は、黙り込んで思考を巡らせているようだった。その間わずか…わずか…いや、二分くらい。それでも、しっかり答えが出たのか、彼女は一つの提案を誠志に持ち掛けてきた。
「なるほどね…あなた、超能力開発(psychic development)を受けてみない?」
「超能力開発?」
彼女によると、超能力開発とは人が超能力者になるために行うことで、これを行わないと人は超能力を扱えないそうだ。
世界は『イズム(情報記憶媒体(information storage medium))』という素粒子と同程度の大きさの粒子で構成され、超能力者はそれに干渉することで、超能力を扱っている。そして、超能力者は体内に保有されている『ナスラ(自然源(natural source))』を使って、『イズム』に干渉する。その『ナスラ』は通常時、人は空気中から吸収できないため、それを吸収できるようにするのが超能力開発ということだ。因みに『ナスラ』は、動物以外のすべての植物、物質に内包されている。そして、植物のみが『ナスラ』を生み出すことができる。だから、自然源と呼ばれている…のだが、後になって間違いだとわかったらしい。それでも、名称自体は変更されなかったらしいが。
「う~ん、詳しくはわからないですけど、とりあえずその超能力開発を、受ければいいんですね!」
「えぇ。あっ!そういえば、自己紹介がまだだったわね。私は、学生治安維持委員会第五区画支部長霧河 愛月、よろしくね」
「はい!」
二人は、学生治安維持委員会第五区画を後にして超能力開発局(Psychic Development Bureau)を目指して歩きだした。その間も、未来都市のことについて誠志は愛月から様々なことを聞いた。全部で三十の区画があることとか、人口が約三百万人であることなど、基本的なことは大体知ることができた。
「さ、着いたわ」
「ここが、超能力開発局」
第五区画にある超能力開発局は、二階建ての施設でそこまで大きくはない。中に入ると、ザ・研究所的な内装で誠志の心は少し上がっていた。施設のこともそうだが、一番は超能力者になれるかもしれないからだった。
「久し振りだね、愛月君」
「真古馬さん、お久しぶりです」
「君が、蒼井誠志君だね。話は聞いてるよ」
誠志の目の前に立っているのは、白衣に身を包んだいかにも研究者という人だった。
「一つ…確認させてくれないか」
「確認?」
「超能力が、必ずしも人に利益をもたらすとは限らない。それでも君は、超能力を望むのかい?」
誠志は、考えもしなかった。超能力があれば、簡単に火が出せたり、のどが乾いたら水を出せたり…みたいなことしか考えてなかった。火も水も、使い方を誤れば人だって殺せてしまう。前述した例を除いても、どんな超能力でも人を傷つけることはできてしまう。もし、超能力に呑まれてしまえば、何をしでかすかわからない。それでも…。
「はい。今の俺には、それに頼るほかないので」
「わかった。さぁ、早速超能力開発を始めようか」
それから約一時間、誠志は様々な機械に包まれて超能力開発を施された。麻酔のようなものはなく、特に人体をいじくるわけでもなかったので、傷みも感じずに逆に過ごしやすいくらいだった。
全ての超能力開発の過程を終えて、誠志は愛月の元に戻った。
「お疲れ様、誠志。それで、どうでした?」
「それなんだが…」
自身の超能力のことについては、まだ誠志も聞いていない。ここまでしてくれたお礼と、後は勝手に先に聞くのが申し訳なく、そろったときに教えるようにお願いしていたのだ。
「実は、誠志君の体内には『ナスラ』が全くないんだ。超能力開発を終えても」
「そ、そんな…」
その事実は、誠志が何をしても超能力者にはなれないということを示していた。




