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超醒の救世者  作者: ミライ
1章
2/22

超能力者の街

 蒼井(あおい) 誠志(せいじ)、十六歳。現在、高校二年生。実家から離れたアパートで独り暮らし中。これだけ聞けば、いたって普通の高校生だ。そう、今目の前に起こっている異変を除けば…。


 誠志は夕食の食材を買うべく一人自転車を漕いでいた。片道十五分、季節は春でまだそんなに暑くはない。ゆったりと、焦らずに向かっていた。春先の風が心地よく、少し気分が浮ついていた…かもしれない。本の先端、数センチだけだ。数センチ、道路標識の支柱にかすっただけ。それだけで、ハンドルを取られ、誠志は道路に放り投げ出されてしまった。


「いてて…」


 とっさに受け身が取れたおかげで、大きなけがはしていない。誠志は腰をさすりながら、状況を確認するためにゆっくりと瞼を開く。少し長い間目を瞑っていたので、目が光になれるまでに数秒かかった。


「どこだ…ここ?」


 誠志の目に飛び込んできたのは、見たことのない景色と世界だった。いや、正確に言えば知っているはずなのに、知らない場所だ。

 周囲を見渡すと、そこにあるはずの標識の支柱はおろか、自分の自転車すら見当たらない。


「どうなってるんだ…」


 自分の身に異常事態が起こっているということは明らかだった。誠志は、まずスマホを取り出して現在地を確認しようとした。しかし、スマホは圏外になっておりGPSは機能していたものの、オフラインの地図アプリを入れていなかったので、位置の確認はできなかった。


「あの…どうかしましたか?」

「え?」


 何とかして現在地を知ろうとする誠志に、一人の女性が声をかけてきた。おそらく、誠志がスマホを持って辺りを見回しているのを、迷子の人だと勘違いしたのだろう。いや、誠志の今の状況は、迷子と言っても過言ではないのかもしれない。まさに、誠志にとって渡りに船だ。


「実は、迷っていまして」

「その恰好、旅行中ですか…ね。えぇと、目的地は第何区画ですか?」

「区画?」


 誠志は自分の言葉が通じたことと、周囲の状況からここが日本である可能性が高いとは思っていた。しかし、彼女が発した「区画」という言葉はあまり聞きなじみがない。普通なら、市町村とか地名を聞くはずだ。


「あの、ここは日本なんです…よね?」

「そ、そうですけど。旅行中…なんですよね?」

「あ、いえ…」


 今の現状を正直に話すべきか、誠志は悩んでいた。ここが日本であることに間違いはなさそうだが、誠志の知っている日本とは少し違いそうだ。真実を話して、信じてもらえるかはわからない。むしろ、信じてもらう方が難しくも思える。それは、誠志が日本を知ってしまっていることが第一の原因だろう。

 数秒悩んだ末に、誠志は一部をぼかしながら自身に起こった事を話すことにした。


「実は元々違う場所にいたんですけど、気が付いたらここにいて…」

「なるほど…だったら一度、学生治安維持委員会(S M C)(Student Security Maintenance Committee)を訪ねてみては?」

学生治安維持委員会(S M C)?」


 誠志は、自分の話をすんなり受け入れられたことよりも彼女の言った単語が気になり、なぜ信じるのかよりもそちらの方が気になってしまった。学生治安維持委員会(S M C)、警察ではなくその言葉が出てきたということは、この日本にとってはかなり重要な組織であることが読み取れた。


「見たところ、学生さんですよね」

「はい」

学生治安維持委員会(S M C)は、学生で構成された組織でいわゆるなんでも屋みたいなものなんです。場所を教えるので」


 そう言って、彼女は持っていたスマホを取り出して、現在地から最寄りの支部を教えてくれた。その後、誠志はお礼を言って教えてもらった風紀委員会(C P M)の支部を目指して歩き始めた。

 見慣れた街並み…ではない。街の雰囲気はガラッとは変わってはいなかったが、見たことないのは明らかだ。場所を教えてもらったとはいえ、地図とにらめっこしながら歩かなければ、見つけづらいような場所に目的地はあった。そのため、地図が使えない誠志がそこへ行くのは容易なことではなかった。


「はぁはぁ、つ…着いた」


 歩き始めて数十分、同じ場所を何度もぐるぐるしながらやっとの思いで到着したのだ。

 看板には『学生治安維持委員会(S M C)第五区画支部』と書かれていた。彼女の言っていた区画とは、ここに書かれている第五区画などを指していたのだろう。そして、ここが第五区画ということは、少なくとも一から四もあるということ。もしかすれば、十以上も存在するかもしれない。そして、それはここに入ればわかることだ。

 

「ふぅ~。よし、行くぞ!」


 正直に言って、誠志はかなりビビっていた。元いた日本とは違う日本。そんなところから来たなどと、誰が信じるのだろうか。信じたとして、これからどうなるのだろうか。不安が多く、今も手がかなりふるえていた。

 誠志は、一つ目のドアを開けて中にあったインターホンを押した。


「は~い」


 奥の方から一人の女性の声が聞こえてきた。彼女は、制服姿に胸に「安」と書かれたバッジを付けていた。県外の高校探しをしていたこともあり、周辺の高校の制服は一通り知ってはいたが、目の前の女性が来ている服は全く見たことがないものだった。学生であることは確かだし、自分よりも一つ下くらいにしか見えないので、中学生とは思えない。誠志は、自分の知る日本と本当に違うところに来てしまったことを改めて自覚するのだった。


「待ってたわよ」

「え、どうし…あ」


 そこで、誠志は先ほどあった女性が連絡を入れてくれていたことに気が付いた。現状の説明をしないといけなかったことを思うとありがたかったが、かなり遅れてしまったことを謝らなければいけないと思った。


「す、すみません。遅れてしまって…」

「大丈夫よ、ここ初めてなんでしょ。さ、座って座って」


 誠志は案内されるがままに、来客用の椅子に座った。目の前に出されたお茶は、自身の知っているお茶だった。つまり、根本的な部分は変わっていないようだ…というのは、誠志の甘い考えだった。


「えぇと」

「事情は聞いてるわ。それで、まず名前と住所と…」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 誠志は先ほどから、何の疑問も持たれずに話が進むことを、疑問に思っていた。向こうとしても先にいろいろ聞いておくべきことがあるはずだが、まずはこれをはっきりとさせておきたかった。


「どうして、俺の話を信じてくれるんですか?」

「ん?あ~そうね、あなたはもともと別の場所にいたのよね?」

「はい、それで気づいたらこの街に」

()ねぇ」


 誠志の言葉に引っかかったのか、初めて疑うような目で誠志を見た。そして数秒後、誠志が一体どういった存在なのかを理解したのか、納得したかのようにうなずくと、この街…いや、この都市の説明を始めた。


「本当に何も知らないようだから、一からここのことを説明するわ」


 そして、誠志は知ることになる。この世界には、超能力という摩訶不思議な力が存在し、現在いる場所が超能力者を育成するための都市であるということを。そう、超能力者の街…いや、超能力者の都市

ーー未来都市『希望(のぞみ)』ーーのことを。

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