呪い
ーー翌日ーー
誠志は、愛月に勧められて超能力開発局に来ていた。
誠志が、エントランスで立っていると、奥の方から一つの人影が近づいてきた。
「よく来たね、誠志君」
「真古馬さん、おはようがざいます」
「さ、こんなところで立ち話もなんだ。お茶を用意しているから、そこでゆっくり話をしよう」
そう言うと、真古馬は誠志を連れて超能力開発局の中にある一つの部屋に移動した。二人は向かい合うように座ると、一人の研究員と思われる人物が二つのお茶と菓子を持って入ってきた。
真古馬は礼を言うと、早速本題に入ることにした。
「話は愛月君から聞いているよ。萃君の超能力が成長…いや、一時的に強化された現象。それが、誠志君の超能力による可能性…」
「はい。でも、前に来たとき、俺の体には『ナスラ』が差し引きゼロで全くないんですよね?」
「それは少し違うね」
「え?」
誠志は、真古馬の発言に動揺し、持っていたコップに入ったお茶の水面を数度揺らした。それもそのはず、誠志が言ったことは前に真古馬が言ったことだ。聞き間違うはずもない。あの時も今も、超能力が誠志の生命線になると言っても過言ではないからだ。
「でも、前に言ってましたよね」
「あぁ、私が言ったのは間違いない」
「どうして…」
「その話をする前に、誠志君は呪いについて知っているかい?」
呪い、その言葉は愛月から聞いたことがあることを誠志は思い出した。愛月が言うには、呪いとは超能力が常時発動してしまうこと。その話は、誠志に通ずるものがあるかもしれないため真古馬はまずその話から始めたのだと、誠志は考えた。
「はい、超能力が本人の意思に関係なく発動してしまうことですよね?」
「そうだね。その定義を考えれば、誠志君。今の君も、呪い持ちということになる」
「それがどう繫がるんですか?」
「それは、そもそもなぜその超能力が、呪いと呼ばれているかを考えればわかることだよ」
なぜ呪いと呼ばれるのか、その考察は呪いのことを愛月から聞いた時にもしていた。その時は、常時発動する超能力が珍しく、悪いものばかりが目立った結果呪いと呼ばれるようになったと考えた。しかし、それは誠志の超能力を解き明かすカギにはなりえないだろう。他に考えられることとしては…。
そのとき、誠志の脳内に愛月との会話の記憶が思い起こされた。
「体内の『ナスラ』が枯渇するから…?」
「そう、その通りだ。『ナスラ』は人の命と直結すると言っても過言ではないもの。それを常時使い続けてしまう超能力があろうものなら…それは呪いだ」
「それじゃ、俺は…?!」
「大丈夫、呪いと言う呼び名が付いたのは超能力がまだまだ未解明だったころの話。今では、超能力者には体内の『ナスラ』保有量が一定値を下回ると、超能力が使えなくなるストッパーのようなものが生体機能として備わっていることが知られているよ」
真古馬さん曰く、そのストッパーが年々機能しなくなっていき、三十代を超えるとほとんど使い物にならなくなるらしい。愛月はそこの部分については言及しなかったが、ストッパーが機能しなくなることすなわち『ナスラ』が枯渇して命を削ることと同義だろう。
「だから、俺の体内にも『ナスラ』はあるってことですか?」
「そうだ。だが、それは使ってはいけないもの。それなのにあると言って、ないも等しいものを君に教えるのが酷と考えて、あえて言わなかったんだ。すまないね」
「そうだったんですね」
確かに、あのとき誠志はか「超能力に頼るしかない」と発言した。その後に、命を削れば超能力を使えるけど使わない方がいい、何て言われていれば誠志のメンタルはぐちゃぐちゃになってしまったかもしれない。それならば、初めから使えないと教えられた方がまだましだ。
真古馬も愛月も、それを思って誠志には言わなかったのであろう…愛月に関しては憶測でしかないが。
「さて、本題に入るとしようか。誠志君、君の超能力について」
「確か、超能力を強化すると言っていましたよね」
「あぁ、そうだね。誠志君、これを持ってくれないか?」
真古馬はそう言うと、一つの箱を取り出した。一般的なルービックキューブほどの大きさの箱の蓋を開けると、中には無色透明な水晶玉のようなものが入っていた。それを取り出して、誠志に手渡す。
誠志は、自身から右側に水晶を差し出されたので、自然と右手でそれに触れた。次の瞬間、まばゆい光とともに、誠志の視界は薄荷色に包まれ、その眩しさに目を閉じずにはいられなかった。




