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超醒の救世者  作者: ミライ
1章
12/16

現在地

「さ、自己紹介も済んだことだし、本題に入りましょ!」

「ん?本題?支部長、瑠真(るま)は何も聞いてないぞ」

「瑠真さんは、こっちで私と一緒に仕事しましょうね~」

「ちょちょ、何するんだ…ぉぃ!」


 瑠真は、莉穂(りほ)に押されるがまま、二階へと上がっていった。反応を見るに、やはり誠志のことは何も知らないらしい。おそらく愛月(まなつ)は、ほかのメンバーにも話していないのだろう。

 なぜ話していないのかと問われても、それは愛月なりの配慮と言わざるを得ない。誠志が行方不明者と分かれば、少なくとも懐疑的な目で見られることもあるはずだ。そうなるのが、学生治安維持委員会(S M C)に入る前か、入った後か…メンバーの反応は全然違うものになるだろう。すくなくとも、後者の方が良い結果になるのは目に見えている。それでも、怪しさを払拭しきれるわけではないが…。


学生治安維持委員会(S M C)に入るために受ける必要のあるものは、知ってる?」

「はい。今朝調べて、実技と筆記があり、実技が重視されることは知っています」

「ふむふむ、その認識で間違いないわ。これから、さらに詳しく説明するわね」


 そう言うと、愛月はPC画面を誠志の方に向けた。そこには、『学生治安維持委員会(S M C)に入るために』と書かれていた。装飾が施され、質素に見えないそれは、プレゼンで使うスライドのようであった。おそらく、誠志のような人に説明する際に使用するものなのだろう。


「まず、筆記試験についてなのだけど、こっちはしっかりと勉強すれば大丈夫だから今は省略するわ。問題なのは、実技試験ね。実技試験は主に二つ、基礎試験と実践形式の試験」

「昨日、超能力者なら一部スルー出来ると言っていたのは?」

「それは、基礎試験ね。内容は、体力テストと同じものと思ってちょうだい」

「なるほど…でも、スルー出来るってことは…」

「えぇ、基礎試験よりも実戦形式の試験の方が重要視されるわ」


 それはそうだ。いくら体力があって、筋力があって、走力があっても実戦で何もできなければ、ないに等しいのだから。もちろん、それは超能力であっても同じ事。どれだけ強力でも、扱いきれなければそれは宝の持ち腐れだ。

 逆を言えば、それを突破した者が集う学生治安維持委員会(S M C)は、超能力のエキスパート集団ということだ。


「この実戦形式の試験には、いくつかの種類があって、そのうちの三つが毎回課されるわ」

「それが、超能力者でないと入るのが難しい理由…」

「そう、この三つのうち毎回必ず選ばれるものがある。それは、対人戦闘よ。それも、超能力者相手の」


 予想はしていた。昨日、愛月から話を聞いたとき、学生治安維持委員会(S M C)に入ったならば必ず遭遇するであろう状況(シチュエーション)。超能力者との戦闘だ。

 そもそも、超能力者でない場合は警察の管轄、学生治安維持委員会(S M C)は必要ない。それ以外の場合があるから、学生治安維持委員会(S M C)が必要なのだ。

 だから、対人戦闘のスキルは必須と言っても過言ではなかった。


「そうですか…」

「大丈夫よ。対人戦闘と言っても、絶対に勝たなきゃいけないわけじゃない。自分の力量に合わせて、冷静に判断して行動することが大切よ」

「勝たなくていいって、敵をKOしなくていいってことですよね?それ」

「…」

「別に気を使わなくても、大丈夫ですよ。どちらにせよ、避けられないことなので。正直に言ってもらう方が、俺としてもありがたいです」

「そう?」


 愛月は、腕を組んで頭を揺らしながら「ん~」と唸っていた。正直に言ってもよいと言われはしたが、どこまで直球に、どれだけオブラートに包んで話すのか悩んでいるのだろう。

 数秒後、何かを決めたのか、愛月は唸るのをやめて「ふぅ」と息を吐いた。そして、目を開いて愛月が考える誠志の現状を話し始めた。


「私が思うに、今の誠志が学生治安維持委員会(S M C)に入れる可能性はかなり低いわ。もし仮に、筆記と基礎試験が満点だったとしても、対人戦闘でかなりの点を取らないと厳しいと思う」

「ありがとうございます。そう言ってくれるだけで、今の俺のやるべきことが見えてきますから」

「ならよかったわ」


 話が一段落したところで、いつの間にか二階から降りてきていた莉穂が、機を見計らってお茶を出してくれた。


「ありがと、莉穂」

「ありがとうございます」

「いえいえ、お構いなく。それよりも、誠志さん、前よりもいい目つきになりましたね」

「そ、そうですか?」


 莉穂から見た誠志の表情がそうということは、少なくとも心の奥底では、現在地を理解してもなお諦める気にはなっていないのだろう。もちろん、端から諦める気は毛頭ないのだが。

 二人は一息つくと、愛月は仕事があると言って、一人二階に上がっていった。


「仕事あったのに、迷惑だったかな」

「そんなことないですよ」

「あ、浅田さん。そうです…かね」

「もちろん、そもそも誠志さんは私たちを訪ねてきた身。今の時間も仕事の一環と思っていただいて、結構ですよ」


 今の時間が仕事だというのならば、朝早くから朝食を持ってきてもらったことを、迷惑に思ってしまう誠志がいた。それはそうと、過ぎてしまったことは仕方ない。誠志は、次愛月と会ったときに、しっかりとお礼を言おうと心に決めたのだった。今すぐいかないのは、仕事中に邪魔するわけにはいかないと思っているからだ。

 誠志は、飲み終えたコップを給湯室に持っていこうと立ち上がった。その時、またしてもインターホンの音がオフィスに鳴り響いた。


「はい!今行きます」


 現在時刻は八時を過ぎたところ。来訪推奨時間内だ。

 誠志は、邪魔になるかと思い移動しようと思ったが、二階に上がるわけにもいかず、その場でじっとしていることにした。


「あ、誠志さん。ごめんなさい、依頼者が来られたので今は二階に上がっててもらえますか?」

「は、はい」

「支部長~、ご依頼の方が来られてますよ~」


 莉穂は、慣れた様子で状況を処理していく。誠志は、言われるがまま二階へ上がった。途中、愛月とすれ違ったが、お礼を言う雰囲気ではなかったので、それはまたの機会に。

 愛月と莉穂が下で対応しているということは、二階にいるのは瑠真と誠志の二人だけ。


「待っていたぞ、誠志。さ、瑠真と話をしようか」


 瑠真は、オフィスチェアの軸を回して、体を誠志の方に向ける。膝を組んで、その上で両手を握って座っていた。身長も相まって、偉いというよりも、可愛く見えてしまうのが第一印象だった。

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