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超醒の救世者  作者: ミライ
1章
10/22

初めての朝

ーー翌日ーー


「…朝か」


 誠志(せいじ)は、重い体を起こして時計を見る。時刻は午前六時を回ったところだ。カーテンの合間から、朝日が漏れ出ている。誠志にとって、この世界での初めての朝だ。

 今日は日曜日、誠志は二度寝をすることはほとんどないので、カーテンを開けて背伸びをする。


「さて…と」


 誠志は、借りた毛布を畳んでソファーの上に置くと、洗面台で顔を洗う。朝食は、愛月(まなつ)が持ってきてくれるらしい。昨日帰ってきた後に、机にそう書かれた書置きを発見した。おそらく、直接言えば誠志に断られると思って、そうしたのだろう。実際にされていたら、もちろん誠志は断っていたが。


「まずは、情報収集だな」


 誠志のスマホは、別の世界から持ってきたものだが、問題なくこちらでも使えていた。インターネットもルータに繋ぐことで使えるようになったし、検索エンジンもアカウントを作り直して解決した。

 十数分調べたところ、超能力が発見されるまでの歴史に相違点は見られなかった。歴史に詳しいわけではないが、誰しもが知っているところは絶対に違わないと、確信を持って言うことができた。


「やっぱり、超能力…か」


 誠志がこの世界にいる理由。それはまだわからない。昨日の件もあるが、もしかすれば、超能力関係の実験の事故に巻き込まれた可能性もあるかもしれない。そう思って、情報収集をしようと調べたものの、それらしきものはヒットしなかった。


「とりあえず、ここは一旦保留だな。それよりも、今は学生治安維持委員会(S M C)に入ることに集中しないと」


 試験内容は、実技と筆記、そして面接の三つだ。と言っても、重視されるのは実技で、筆記が満点でも実技が零点では受からない。実技が低くも、PC等に強ければ入れることもあるが誠志はそうではない。つまり、実技で高得点を狙いつつ、筆記もそれなりに取らなければいけないのだ。面接は、人柄を見るための試験なので、よほどのことがない限りは大丈夫だろう。

 過去問を見た感じ、筆記はそこまで難しくない。実技テストの詳細は詳しくは分からないが、超能力使用可という点を見る限り、超能力者でないと厳しいものになりそうだ。スルー出来るのも、基礎的なところだろう。


「次の試験は月末…か。…よしっ!軽く走りに行くか」


 誠志は、高校で部活に入っていない。一年生の時は強制入部だったが、二年の今は特にやる気もなかったので春休み中に退部していた。もともと入っていた部活も、運動部ではないので体力があるかと言われればかなり怪しい部類に入っていた。


「まぁ、こんなもんか」


 遠くまではいけないので、近くを軽く一周してきただけだったが、久々の運動は気持ちの良いものだった。時刻は、後少しで七時になろうとしているところだった。走った時間としては、約三十分。ランニングとはいえ、汗もかいていた。今の誠志には、着替えの服がないので、とりあえず早く帰って汗を拭きたい気持ちでいっぱいだった。


「あれ?鍵が開いてる…」


 出るときに、しっかりと鍵を掛けたので、開いているなんてことはない。掛け忘れもないはずだ。

 誠志は、恐る恐る扉を開けた。学生治安維持委員会(S M C)に強盗が入る…なんてことがないとは言い切れない。それでも、超能力者集団に喧嘩を挑む者はそうそういないはずだ。つまり…。


「あ、おかえり。誠志」

「き…霧河さん。ただいま…です」


 やはり、愛月だった。他の学生治安維持委員会(S M C)が、こんなに朝早くから来るわけもなく、来るとしたら誠志に用がある愛月くらいだからだ。

 誠志は、洗面所で顔を洗って愛月のもとに歩みを進めた。


「はい、朝食を持ってきたわよ」


 テーブルの上には、弁当箱がおかれていた。ふたを開けると、中には色とりどりの品々が光り輝いていた。そのどれもが、冷凍食品などの即席で用意できるようなものではないことは、一目瞭然だった。


「これ、霧河さんの手作りですか?」

「そうよ。あ!味は期待しないでね」

「ありがたくいただきます」


 誠志は、久しぶりの人との食事を楽しみながら、愛月の手作り弁当を味わって完食した。いつも冷凍食品や、簡易味噌汁などで食事を済ませていた誠志にとって、人の温かみを感じられる大切な時間であった。


「ごちそうさまでした。弁当箱(これ)は洗っておくので、シンクお借りしますね」

「も、もう食べ終わったの?!は、早いわね」

「霧河さんの作った弁当がおいしかったからですよ」


 驚く愛月を横目に、誠志は給湯室に歩みを進めた。誠志は愛月の年齢を知らなかったが、高校生であることは知っていたので、同年代の女子がここまで料理できるとは思ってもいなかった。人が作った料理の感想を、当の本人に伝えるのは身内以外では初めてだったが、敬語で距離を話していたおかげか思ったよりも恥ずかしくなかった。

 誠志が弁当箱を洗っていると、遅れて食べ終えた愛月も弁当箱を持って給湯室に入ってきた。


「霧河さん、料理上手なんですね」

「そう?私がここに入ったときの支部長のせいね」

「というと?」


 愛月曰く、その支部長はとてもズボラで、家に帰らず第五支部に居座り、三食カップ麺というとても不健康な生活をしていたらしい。そんな支部長を見ていられなくなった愛月が、弁当を作って持ってきていたそうだ。


「確かに、それは上達しそうですね」

「今となってはいい思い出よ」


 二人は、弁当を洗い終えるとオフィスに戻り、ソファーに向かい合って座った。今日は、昨日保留になった誠志の学生治安維持委員会(S M C)に入る件について、話し合うためだ。とはいっても、まだ朝は早い。学生治安維持委員会(S M C)の活動時間外であるため、まずは雑談から始めることにした。


「そういえば、昨日あの後とくに問題なかった?」

「あ~」


 誠志は、昨日二人と別れた後に起きた出来事を話そうか一瞬悩んだが、それを話すと誠志に起こった事についても言わないといけなくなると思い、口をつぐんだ。


「いえ、大丈夫です」

「そう、ならよかったわ」


 本題には踏み込まず、それでも無関係とはいかない話題を十数分話していた時、インターホンの音がオフィスに鳴り響いた。


「ん?誰かしら。一応、来訪推奨時間外なんだけれど」


 愛月はそう言って席を立つと、誠志に待つように指示してオフィスを後にした。

 学生治安維持委員会(S M C)第五支部は、二階建ての事務所のようなものだ。入り口には、学生治安維持委員会(S M C)でないと開けられない扉がある。誠志は、愛月からカードを借りているので、それを所定の位置にかざすことで出入りできているが、今は裏口を使っている。

 数十秒後、二つの段ボールを抱えた愛月が歩いてきた。


「あ!一つ、持ちますよ」


 誠志は、上に載っていた方の段ボールを抱えた。そんなに重くもなく、何が入っているのかはあまり想像できなかった。

 誠志と愛月は、机の上に並べて段ボールを置いた。


「霧河さん、これは?」

「誠志宛らしいんだけど…宛名が書いてないわね」


 この世界の誠志は、用意された存在…と、そう考えていた。そう願っていた。しかし、誠志宛の荷物が届いたということは、存在していた可能性が高くなったかもしれないということだ。とはいったものの、誠志がここにいることを知っている人物は少ない。もしかすれば、これを送ってきた人物は…。


「あ、開けますよ」


 誠志は、ガムテープをはがして、両手で段ボールのふたを掴んだ。そして、深呼吸をして中身を確認するために両手をゆっくりと左右に動かした。

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