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薬を飲み続けて、一季節が過ぎた。
彼女はそこでようやく、自分自身の異変に気付いた。
手足も顔もやせ細っていたものの、何故かお腹が出ているのだ。
妊娠した覚えはない。
しかしよく考えてみると、あの茶色の薬を飲んだ後、生理は一度しか来ていなかった。
苦痛がなくなったことで、生理の周期のことなど頭になかったのだ。
なら、この腹は一体どうなっている?
疑問に思っている頭の中に、薄いモヤがかかる。
不意にお腹がズキンッと痛んだ。
低く呻くも、その声に力は無い。
すでに指一本動かす力もなく、彼女は床に仰向けに倒れた姿でいたのだ。
その体はガリガリにやせ細り、お腹だけが丸みをおびて盛り上がっていた。
肌の色もすでに茶色になり、カサカサに乾いていた。
髪すら白くボサボサになっており、剥いた眼だけが僅かに命の光を宿していた。
やがてお腹が動き出す。何かが腹を突き破り、出てこようとしている。
痛みはどんどん強くなる。
彼女は久々に感じる強い痛みに、何故か安堵した。
痛みを感じることは、すなわち生きている証だから。
でもそれももうすぐ、終わる。
静かな気持ちで、彼女は悟ってしまった。
お腹で蠢いているのは、自分が今まで封じてきたモノ。
それがこの世に生まれ出でようとしている。
己の命を犠牲にして―。
今まで抑えて来たモノが、出てくるのだ。
この体を食い破って―。
一際強い痛みが全身を襲った時、彼女の意識は暗い闇の中に沈んだ。
それと同時に、眼に宿っていた光が消えた。
しかしお腹は動きまくり、やがて、膨らみが限界に達した。
ブシューっと部屋に血が飛び散る。
溜まっていた分、勢い良く噴出したのだ。
裂けたお腹から、一本の美しい花が咲いていた。
美しい赤い大輪の花は、とても良い匂いがした。
まるで果物が腐り間際に放つ、甘く蠱惑的な匂いを。
しかし花はみるみる萎れていき、その匂いも消えていった。