静かなる戦場――サティの駆け引き
薄暗い室内、ろうそくの灯が揺れる中、サティは複数の文書と情報を広げていた。
その横ではフリッツが一冊の黒い帳簿を手にしている。
「大宰相アストールは、今や王宮の影響力のほとんどを掌握している。
しかし、彼にも弱点はある」
サティは冷静に分析する。
「彼は貴族の間に根強い支持を持っているが、同時に、ある一族の過去のスキャンダルを恐れている」
フリッツが帳簿の一部を指さす。
「この一族の資料を握ることで、アストールの動きを牽制できるはずです」
「なるほど。弱みを握ることで、直接的な衝突を避け、彼を動かしにくくさせるのね」
サティは微笑んだ。
「魔国側の反発派には、リリアナの古い側近で、密かに人間との共存を嫌う者がいる。
彼らの動きを監視しつつ、内部から味方に引き込む情報を流す」
フリッツは頷きながら言う。
「スパイ活動と情報操作で、内部から分断を狙うわけですね」
サティは手元の通信石に触れ、小声で指示を出す。
「同時に、盟約の利点を示すために、人間界と魔国双方に小規模な合同演習を提案する。
成果を公にすれば、反発派の勢いを削げるはず」
フリッツも感心したように言った。
「まさに知略の勝負ですね」
「力押しではなく、駆け引きで揺さぶる。これが私の戦い方」
サティは眼差しを強くし、未来を見据えた。




