聖女からの招待状
サティは書類に目を通し終え、窓の外の澄んだ青空をぼんやり眺めていた。
異界の激戦から数週間が経ち、ようやく心身ともに落ち着きを取り戻しつつある日常が戻ってきていた。
そんな時、部屋の扉が静かにノックされた。
執事が一通の美しい羊皮紙を手に差し出す。
「サティ様、こちらの書状が届いております」
封は純白のシーリングワックスで、中央には見覚えのある聖女の紋章が浮かび上がっていた。
サティはそっと封を解き、丁寧に開いた。
***
親愛なるサティ殿へ、
貴殿の活躍は常に耳にしております。
このたび、パルナコルアの地にて緊急の招集を命じられました。
ぜひ、私と直接お会いし、今後の重要な話し合いに参加していただきたく存じます。
貴殿の卓越した能力が不可欠です。
日時は添付の地図と共に記しております。
御身ご自愛のほど、心よりお祈り申し上げます。
――聖女ルア
***
サティは手紙を見つめながら、静かに息をついた。
「パルナコルア……か」
彼女の瞳に、決意の光が宿る。
「新たな使命の始まりね」
窓の外に広がる世界はまだ広く、彼女の旅は続くのだと告げていた。
***
部屋の窓から差し込む朝日の光が、書斎の机に置かれた地図を淡く照らしていた。
サティは静かに立ち上がり、地図を手に取る。
「パルナコルア……」
地図には複雑に入り組んだ山脈と海岸線、そしていくつかの街道が示されている。
付箋には招待状に記された集合場所が赤く印されていた。
扉が開き、フィーネが入ってくる。
「サティ、もう準備はできている?」
サティは微笑みながら頷いた。
「ええ。数週間の間に心も体も整えたわ。今回は一人で向かうけど、何かあったらすぐ連絡して」
フィーネは真剣な目で頷いた。
「気をつけて。パルナコルアは今、ただ事じゃないから」
サティは剣を携え、軽く腰に巻いたベルトを調整する。
「ありがとう、フィーネ。必ず無事に戻るわ」
一息ついてから、サティは外へと歩き出した。
城門を抜けると、朝の冷たい空気が頬を撫でる。
人々の活気を背に、サティの足取りは迷いなく前へと進む。
新たな任務、新たな戦いの始まりを告げる旅路の一歩だ。
***
朝日の中、サティは馬車に揺られながら、見慣れたルメリアの街並みを後にした。
遠くに見える山々が、目的地パルナコルアの険しい地形を予感させる。
「ここからは一人で進む」
馬車が大きな街道の分岐点に着くと、サティはそこで馬車を降りた。
背負う荷物は最小限。剣を腰に携え、軽装のまま山道へと足を踏み入れる。
道は細く、ところどころに石が転がる険しい山道だった。
しかし、サティの足取りは軽やかで、迷いはなかった。
霧が立ち込める谷間を越え、小さな集落をいくつか通り過ぎる。
旅の途中、現地の農夫や商人たちと挨拶を交わしながら、彼女はパルナコルアへと近づいていく。
日が傾き始めた頃、サティは小さな宿屋に泊まることにした。
疲れを感じつつも、彼女の目は鋭く、次の目的を見据えている。
「明日には……聖女アリアに会える」
窓から差し込む月明かりが、サティの決意をさらに強く照らし出していた。




