封じられし城壁
「……ルゼス、なの?」
霧の広場に響くその名に、黒い翼を広げた異形の男が静かに首を傾げた。
顔の造形は確かに、記憶にある“彼”のまま。
けれどその瞳に映る光は、もう人のものではなかった。
> 「ルゼス、だったものだ。
今の私は《霧翼の従者》、ザイデン様に忠誠を誓う存在」
「どうして……あなたはあの時、私の味方だったはずでしょ?」
フィーネ――いや、彼女の中の“エリシア”がそう問いかける。
> 「君が僕を斬った時点で、僕は君の“敵”になったんだよ。
それを選んだのは、君だ」
冷たくも、どこか痛みを滲ませた言葉。
その剣先が、フィーネに向けられる。
> 「君が前世を忘れ、別の名で生きることを、僕は望んでいた。
でも――こうしてまた“剣を取った”のなら、もう一度、君を試さなきゃいけない」
フィーネは、剣を握る手に力を込めた。
「望まれてたなら、なぜ今こうして私を斬ろうとするの?」
> 「だって……君が僕を殺したからだよ、エリシア」
刹那――
霧が爆ぜ、空間が歪み、二人の間に激しい剣閃が走る!
***
「サティ、手を出さないで!」
「……フィーネ……わかったわ」
サティは魔導結界を展開し、フィーネの後方を守る。
その瞳に映るのは、かつて見たことのない“本気の戦い”。
(あの男……フィーネと“深い関係”があったのね。なら、今は――)
***
ヴェスティアの双剣が霧を操り、虚空に刃を伸ばす。
対するフィーネは《契約剣・ルクレシア第二形態》を駆使し、空間を“断ち切る”。
> ギンッ……ガギッ!!
「“君は人を救うためなら、仲間すら切り捨てる”――
それが、君の本質だ。エリシア。
なら、その在り方が変わったって証明してみせろよ!!」
「私は……フィーネ・ラインベルクよ!!」
剣と剣が激突するたびに、霧が散り、空が割れ、記憶がこぼれる。
かつて交わした約束。
見つめ合った視線。
そして、最期にすれ違った後悔。
> 「君が僕を止めたあの時……僕は、君に殺されて良かったと思ってた。
でも、どうしても忘れられなかったんだ。
どうしても、君の“選ばなかった未来”を」
「私だって――!」
一閃。
フィーネの剣がヴェスティアの霧の翼を断つ。
彼の身体が、ふわりと力を抜いて宙に浮かぶ。
> 「……ああ。君はやっぱり……君のままだ……」
ヴェスティア――かつてのルゼスは、穏やかな顔で霧の中に消えていった。
***
広場には、静けさが戻る。
「……さよなら、ルゼス」
フィーネは、ただそう呟いた。
その刹那、都市の中心から鐘の音が響く。
> ゴォォン……ゴォォン……
サティが言った。
「最深部が、私たちの存在を感知した……」
「ついに、来るのね」
ザイデンが待つ《霧核》へ――。




