《死神》確保作戦
「――それは、事実なのか?」
冒険者ギルド本部の会議室。重厚な扉の奥、集められたのは名だたるパーティーのリーダーたちだった。
ギルド幹部のハイドは、机に両肘をつきながら、鋭い視線をジキルたちに向けている。
「……信じがたい話だ。新人の受付嬢が、素手で塔のボスを倒したなど」
「ですが、俺は……確かに見たんです」
ジキルは言葉に詰まりながらも、強い意志を込めて答える。
「あの時、ドラゴンが手刀一閃で斬られたのを……」
「記憶操作か、幻覚か……」ハイドが唸るように呟く。
沈黙が流れる中、サブマスターの女性が口を開いた。
「……あの、今回の件も、《死神》の仕業だとは考えられませんか?」
室内の空気が、ぴりりと緊張する。
「《死神》か……」
ギルド内外で都市伝説のように囁かれる謎の存在。正体も目的も不明。ただ、圧倒的な戦闘力と神出鬼没の行動により、いくつものSランク級の危機を単独で鎮めている――そんな存在。
「どうして、そう思う?」ハイドが問う。
「この短期間で……強い“何か”が頻繁に現れすぎています。受付嬢が変身しているのか、それとも彼女を装っているのか……。少なくとも、私たちが把握している範囲を超えている存在が、ギルドの中にいる気がするんです」
「……なるほど。君の言うことにも一理あるな」
ハイドは腕を組み、深く思案に沈む。
「だが、《死神》だと断定するには証拠がない。今の段階ではただの憶測だ」
「なら――」
サブマスターが一歩踏み出した。
「罠を仕掛けてみるのはどうでしょうか?」
彼女の提案に、室内がどよめく。
「罠?」
「はい。もし次に特殊なダンジョンや塔が出現したら、あらかじめ《死神》の出現を想定して、内部に複数の監視や検知スキルを配置します」
レイド、ジキル、そして《白金の盾》のリーダーたちが顔を見合わせ、うなずく。
「……ふむ。それで、もし現れたなら、その場で正体を突き止める……か」
「ええ。万が一、ギルド内の誰かが《死神》なら――いえ、それ以上の存在なら、放置しておくのは危険です」
ハイドは、しばらくの沈黙の後、頷いた。
「よし。次のダンジョン発生時に備えて、罠の準備を進めよう。対象は《死神》。ギルドとして、正式に監視体制を敷く」
こうして、誰よりも信頼されるはずの“ギルド受付嬢”サティ・フライデーに、無意識のうちに、静かなる包囲網が敷かれていった。
誰も知らない。
それが、《死神》本人にとって、ただの“日常”のひとコマでしかないということを――。