霧の試練と、封印の真実
「《斬閃・貫穿》!」
フィーネの一撃が、刻印魔獣の装甲を切り裂いた。
霧の中から現れる黒き異形たちは、“獣”というより“形なき影”に近い。
「まるで……恐怖そのものが形になってるみたいね」
サティが魔導符を放ちながら、冷静に観察していた。
「こいつら、“記憶を食ってる”。私の過去の感情が刺激されるの、わかる?」
「私もだ……これ、“試練”って言ってたけど、そういうこと……?」
ふと、頭の中に“声”が響いた。
> 『この世界に侵食を始めたのは、霧でも異界でもない』
『“扉を開けた者”がいたから、始まったのよ』
視線の先――噴水跡の石碑に、再びヴェリシアの幻影が現れる。
その目は、どこか懺悔を語る者のように悲しかった。
> 『私はかつて、異界の“知識”に魅入られた』
『この世界を守るために、それを“使う”と信じた……』
> 『けれど――私は《扉を開ける鍵》に過ぎなかった』
「……開けたのは……あなたじゃない?」
> 『ええ。私ではない。“あの者”よ』
***
その瞬間、フィーネの頭に電流のような映像が流れ込んだ。
白衣を纏う一人の男。
鋭い目と冷たい笑みを浮かべ、異界の魔核を手にしていた。
その背後には、黒い紋章。
どこかで見覚えのある紋だった。
> 『彼の名は《ザイデン》――異界研究を進めた裏ギルドの長』
『かつて王都で禁忌を犯し、姿を消した“魔導官”よ』
「ザイデン……!」
サティも声をあげる。
「ルメリアの旧魔導院の“禁忌指定者”リストに載ってたわ。消息不明、死亡扱いだったはず……」
> 『彼は今も生きている。異界に“拠点”を築き、こちら側への侵食を進めている』
「それが……“黒霧の源”?」
> 『ええ。そして、あなたの持つ《契約の剣》は……その侵食を断つ“唯一の刃”』
***
魔獣をすべて倒し終えたフィーネの前に、最後の幻影が現れる。
ヴェリシアの影は、剣を前に静かに手を差し出した。
> 『私にはできなかった。封じることも、戻ることも』
『でも、あなたなら……“選び直す”ことができる』
その言葉とともに、フィーネの刻印が再び光り――
剣が共鳴する。
> 【システム:契約者認証進行──“封印制御権”取得】
【解放された記憶:霧境の座標──座標転移可能】
「……異界への入り口の、座標が――!」
フィーネの瞳に、暗黒の空間が一瞬映る。
その瞬間、ヴェリシアの幻影は微笑みながら言った。
> 『あなたの物語が、ここから始まる』
『私の願いを……世界の願いに変えて』
そして、彼女は光に還った。
***
「サティ、急ごう。次は……ザイデンを見つける」
「ええ。“異界の拠点”が存在するなら、そこに行くしかないわ」
フィーネは契約剣を背に背負い、霧の中の廃都を後にした。
彼女が歩く道の先には――
かつての魔導官であり、異界を裏から操る“ザイデン”との対決が待っていた。




