禁域・旧市街への潜入
パステコ公国・旧市街跡地。
そこは10年前、突如発生した“黒霧災害”により消滅した都市の一角。
現在は完全立ち入り禁止。政府軍の監視下にあり、“霧汚染指定区域”として封鎖されていた。
「ここが……」
フィーネが立つ先に、朽ちた大門と、蔦に覆われた石壁。
その奥からは微かに、霧のような魔力のうねりが感じ取れる。
「魔力の密度、濃すぎる……防護なしに入ったら数分で侵食されるレベルよ」
サティが警告する。
「でも、あの扉を見て」
旧市街へ続く門に、ひとつだけ《剣型の刻印》が浮かんでいた。
フィーネの掌と共鳴するそれは、まるで彼女の“訪れ”を待っていたかのように――光る。
> ゴォ……ン……
封印が解かれた瞬間、門がゆっくりと軋む音を立てて開いていく。
「行きましょう。彼女の記憶が呼んでる」
***
旧市街内部は、まるで“時”が止まったかのようだった。
崩れた建物。
腐食した街灯。
漂う黒霧。
だが霧の中には、“異質なもの”が混じっていた。
「見て……これ、“記録の残留”よ」
サティが指差した先には、霧の中に浮かぶ“人影”のような像。
まるでその場所で、誰かが何かを叫びながら、魔力に飲み込まれたような――“記憶のフラッシュ”。
「これ、全員……ヴェリシアの記憶に巻き込まれた……?」
「彼女は見たものを“記録”に刻み、それが霧に焼き付いたのかもしれない」
そして最奥。
旧市街中央広場の噴水跡に、巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。
中央には石碑。
その側面には、はっきりと一つの名が刻まれていた。
> 『ヴェリシア・ラゼンティア』
――封印者にして、異界を覗きし者。
「ここが、彼女の“最後の座標”……!」
だがその時だった。
霧が突然、異常にざわめいた。
「フィーネ、下がって!!」
サティが叫ぶより早く、魔法陣の中心に亀裂が走る。
その中から出てきたのは――
半透明の影。
白銀の髪をなびかせ、ただ無言でこちらを見つめる“少女の姿”。
> 『……あなたが、今の“契約者”?』
「……! あなたが――ヴェリシア……?」
その目は、何もかもを知っているかのように深く、そして悲しみに満ちていた。
> 『私は見た。異界を。未来を。そして……“過去の終わり”を』
***
突如、霧の中に数十体の《刻印魔獣》が現れ、フィーネとサティを取り囲む。
> 『今、あなたに試練を与える。私が越えられなかった“壁”を、あなたは越えられるか――』
「……受けて立つ!」
フィーネが剣を抜き、刻印が強く輝く。
「行くわよサティ!」
「任せなさい。受付嬢の支援、なめないで!」
二人の背中を合わせた戦いが、今、封じられた記憶の中で始まった。




