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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第9章 黒霧編

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昼下がりの学院と、受付嬢の午後

ルメリア学院――午後の授業が終わり、生徒たちは思い思いに自由時間を過ごしていた。


中庭では、フィーネが木陰のベンチに座り、エイルの隣で本を開いている。


「読書……退屈じゃないですか?」


エイルが聞いた。


「そうでもないわ。こう見えて、私は“理論魔術”とか、けっこう得意なのよ」


「剣だけじゃないんですね……」


「……サティに言われたの。“剣だけの人間じゃいけない”って」


ふっと微笑むフィーネに、エイルもつられて微笑む。


「私、まだ怖いんです。霧の中にいた自分が、また戻ってきたらって……」


「怖くていい。だからこそ、私たちがそばにいる。逃げそうになったら、叱ってあげるわ」


「それ……先生っぽいです」


「ふふ、光栄ね」


柔らかな風が吹く。

木々の葉がざわめき、空はどこまでも青かった。



***


その頃、ギルド本部・受付。


「……はぁ、今日も雑務が多いわね」


サティはカウンター奥の書類棚を整理しながら、ため息をついていた。


彼女の机には、依頼書と報告書が山のように積まれ、横にはまだ未開封の書簡がいくつもある。


「でも、学院からフィーネの報告も来たし、エイルも落ち着いてるし……少し、ホッとしてるかも」


ひとりごとのように言いながら、彼女はお気に入りの茶葉を使って紅茶を淹れ始めた。


午後三時。

サティの密かな楽しみは、“誰もいないギルドの静けさ”の中で紅茶を飲むこと。


(これくらいの平穏が、ずっと続けばいいのにね)


ふと、彼女は小さく笑う。


けれど――その紅茶の香りにまぎれて、どこからか、かすかに魔力の波動が揺れた。


(……気のせい?)


サティは目を伏せ、再び書類に目を通し始める。だが、無意識に机の引き出しへと手が伸びた。


そこには、例の“黒鏡の破片”が保管されていた。


(ほんのわずかに……反応してる?)



***


一方、学院の講堂前。


「エイルちゃん、これ借りてたやつ、ありがとう!」


「うん、また何かあったら言ってね」


周囲の生徒たちとも少しずつ打ち解けていくエイル。


もう“事件の中心人物”ではなく、“ただの一人の新入生”として。


彼女の心にはまだ影が残っている。


でもその上に、少しずつ“陽だまり”が差し込んでいた。



***


そして日が暮れるころ。


学院の屋上で、フィーネとサティが再び顔を合わせた。


「どう? 少しは落ち着けた?」


「ええ。あの子も、ちゃんと前を向いてる」


「……でも、油断しないで。黒鏡は終わってないかもしれない」


「分かってるわ。でも、それでも私は……」


フィーネは夜空を見上げた。


「彼女を守るわ。この剣にかけて」


サティは頷き、そっと呟いた。


「じゃあ私も、このルメリアを――“受付嬢として”守ってあげる」

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