ボス退治
塔の最上階、そこでは熾烈な戦闘が繰り広げられていた。
《白金の盾》《黄金の剣》《白銀の翼》──ギルドでも名の通ったAランクパーティが三組、共闘しているにもかかわらず、敵の巨躯は一歩も引かない。
「こいつ、強えな……」
《白銀の翼》のリーダー、レイドが冷静に周囲を見渡す。
「油断するなよ? ジキル」
「分かってますよ!」
ジキルは短剣を構え直し、鋭く敵を睨みつける。
「連携して倒すぞ!」
「はい!」
三組の精鋭たちが完璧な連携で攻撃を仕掛ける。だが、ドラゴンのような異形の存在は鋼の鱗に守られ、攻撃のほとんどが通らなかった。
その場の誰もが、敗北の二文字を覚悟しかけた、その時だった。
───空気が変わった。
「スキル《大罪》――虚飾・介入」
誰かが心の中で呟く。直後、空間がわずかに歪み、一人の人物が現れた。
「君は……モニカさん!? ギルドの受付嬢の!」
冒険者たちが驚愕の声を上げる。そこに立っていたのは、ギルドの受付嬢として知られている女性───モニカ。しかしその姿は、どこか威厳すら漂わせていた。
「そんなの、決まってるじゃないですか。こいつを、倒しに来たんですよ」
彼女は軽く一歩踏み出すと、構えもなく、手刀でドラゴンの首を斬り落とした。
「……おい、見たか……?」
「俺たちが全力で戦っても倒せなかったのに、手刀で……!?」
呆然とする冒険者たちに向かって、モニカ───否、正体を隠した《サティ》は静かに言った。
「皆さん……"今見たことは忘れてください"」
その瞬間、冒険者たちの記憶は曖昧になり、誰もが一瞬の空白を抱えたまま呆然と立ち尽くしていた。
* * *
「ボスも倒したし……戻るか」
塔をあとにしながら、サティは肩を回す。
ギルド職員としての仮の姿を解くには、誰の目にも触れぬ場所が必要だった。
「ふぅ……今日は特に疲れたわね」
家に戻ると、ようやく正体を隠すスキルを解除する。
仮面を脱いだその素顔は、どこにでもいるような穏やかな受付嬢──サティ・フライデー。
「姿を変えるのって……こんなに体力使うのね」
その夜、彼女はベッドに身を沈め、深く眠りについた。
明日からまた、普通の受付嬢としての一日が始まる──
だが、誰も知らない。
塔を救ったのが、あのいつも笑顔の女性だったことを。