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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第9章 黒霧編

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霧の囁き、鏡の奥で

(ねぇ……こっちへ来て)


その声が聞こえたのは、学院の入学式の数日前だった。


最初はただの夢だと思っていた。

黒い霧の中に誰かが立っていて、私の名前を呼ぶ。


でも、目覚めたとき――枕元に黒い羽根が落ちていた。


(夢じゃない)


その確信が胸に根付いた瞬間から、私の“感覚”は変わり始めた。



***


私の名前はエイル・セラフィーナ。

平民出身だけど、魔力の適性が高いって理由で、ルメリア学院への入学が決まった。


家族は素直に喜んでくれたけど、私は少し……怖かった。


期待されすぎることも。

“特別”だと言われることも。

それに、あの場所の近くで育ったことも。


黒霧区。


旧市街のはずれにある、魔力の淀んだ“死の街”。


でも私は――そこに惹かれていた。


昔、あの霧の向こうに何かが見えたことがある。

大きな鏡のようなもの。

それが、ずっと私を見ていた。



***


そしてある夜、私は夢遊のように歩き出した。


足は、意識とは関係なく霧の方へ向かう。

ただ、怖くはなかった。


(こっちへ来て)


霧の奥から、やさしい声がした。


(あなたには才能がある)


(あなたは“選ばれた”子)


霧に包まれたとき、私は確かに誰かの手に触れた気がした。



***


気づけば、私は黒霧区の奥――倒壊した旧学院の裏庭に立っていた。


(あった……あれ)


私の目の前には、“鏡”があった。


高さ2メートル以上、楕円形の古代風の額縁に包まれた、漆黒の鏡。


鏡は私の姿を映さない。代わりに、“何か別の誰か”が映っていた。


そしてそいつが、私に微笑んだ。


> 「ようこそ、エイル。君は、ここで変わるんだ」




その言葉を最後に、意識がふっと薄れていく――



***


目覚めたとき、私は自分が“自分ではない”ような感覚に襲われた。


頭が重い。魔力が渦巻いてる。

でも、奇妙なほど“快感”だった。


そして私は、もう一度、鏡を見た。


今度は――確かに自分の姿が映っていた。


けれど、そこにいたのは、**黒い瞳をした“私じゃない何か”**だった。



***


「……あの人が来る」


私の口が、自然とそう呟いた。


「白い剣の人。……でも、まだ来ちゃダメ。まだ、準備が終わってないから……」


鏡の中の声が、私の心にささやきかける。


> 「彼女が来たとき、試練を与えてあげて」




> 「そうすれば、“門”が開くから」




私は静かに頷いた。


霧の奥、黒の鏡の前で――私は“何か”に変わろうとしていた。

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