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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第9章 黒霧編

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行方不明の生徒と、黒い風

ルメリアに戻ってから数日。

《剣聖》フィーネは、教師として学院に赴く準備を進めていた。

私はギルドで諸々の処理に追われながらも、一件の報告に目を止めた。


「……やっぱり、エイルの件、動かないといけないわね」


提出された報告書には、学院に通うはずだった新入生――エイル・セラフィーナが一週間前から姿を消していると書かれていた。


彼女は平民出身だが、稀に見る魔力資質を持ち、特待枠での入学が決まっていた子だ。


(行方不明……場所は黒霧区の近く……)


ふと、彼女の入学願書の隅に添えられたメモに気づく。


> 「もし私がいなくなったら、北の“黒い風”を探してください」




「黒い風……」


その瞬間、数年前の記憶が脳裏をよぎった。


黒霧区。

かつて、私がギルドの裏任務として監視していた、ルメリア最大の封鎖区域。


霧に取り込まれ、戻ってこなかった者は多い。だが――最近は妙に静かだった。


(逆に言えば、“動きがない”のが不自然)


私は机から立ち上がり、窓の外――学院の塔を見上げた。



***


その日の夕方、私はフィーネにエイルの件を伝えた。


「エイル・セラフィーナ。平民出身だけど魔力適性は高い。あの子が黒霧区に入った可能性があるわ」


「どうして?」


「彼女、昔《黒霧区》近くに住んでいたことがあるの。魔力に過敏で、何かを感じ取ってしまったのかもしれない」


フィーネは少し黙ってから、静かに言った。


「私が行くわ」


「待って。まだ確証はない。下手に近づくと、霧に呑まれる危険がある」


「だからこそ、私なのよ。私の魔力耐性なら、ある程度の霧なら耐えられる」


私はしばらく考えた。

彼女の実力なら、たしかに可能だ。

でも……何か胸の奥がざわついていた。


「分かった。フィーネ。もし行くなら、私の“補助装置”をつけて」


「補助装置?」


「魔力波探知と、霧の侵食度を検知するリストバンド。特注品よ」


「なるほど。……準備は?」


「明日には渡せる。問題は……黒霧区の“封印”が、まだ保たれてるかどうかね」



***


その夜、ルメリア学院の塔の上――

夜風に吹かれながら、ひとりの生徒がぽつりと立っていた。


長い黒髪、深く伏せた瞳。

その唇が、誰もいない闇に向かって呟く。


「……あの声、また聞こえた……鏡の奥から、私を呼んでる」


彼女の名は――エイル・セラフィーナ


その瞳は、もう人間のものではなかった。

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