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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第8章 パステコ公国編

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旅路の対話、そして想い出の剣(フィーネ視点)

「……静かね」


馬車の車輪が、わだちの残る街道をゆっくりと進んでいく音だけが響いていた。窓の外には、黄金色の麦畑が続いている。遠く、丘の向こうに見えるのは、ルメリアへの道標だ。


「騎士団の行進と違って、こういうのも悪くないでしょ?」


向かいの席に座るサティが、微笑む。旅の道中、彼女とふたりきりになるのはいつぶりだろう。


「……あんまり喋るの得意じゃないけど、退屈してない?」


「平気。あなたの沈黙は、ちゃんと“考えてる音”だから」


(……考えてる音、か)


確かに、考えていた。私がルメリアに向かう意味を。


王候補を辞退して、この旅に出たこと。それは“逃げ”なのか、それとも“選択”なのか。


「……昔のこと、少し思い出してたの」


「どの頃?」


「サティと初めて出会った日。あの試験場で、君が受付の奥で剣を磨いてたの、覚えてる?」


「懐かしいわね。あのとき、あなた血だらけで倒れてたじゃない」


「試験官が本気で斬りかかってきたから……」


私たちは同時に、ふっと笑った。


でも――その裏には、誰にも言わなかった想いがあった。


あの日の私にとって、“強さ”は生きるための鎧だった。



***


(回想)


――「何度やられても立て。そうしなければ、お前は何も守れん」


師である《老剣鬼》の言葉が、いまだに耳に残る。


誰かを守りたい。そう願ったあの日。

でも、守れなかった日がある。


火に包まれた故郷。貴族の家に生まれながら、守りたかったのは家柄じゃなかった。


家族だった。…ただ、家族だけだった。


私はそれを失った。


その日から、“負けない”ことに執着した。


王になる道すら、「力があれば守れる」と信じたから。


(回想終わり)



***


「ねぇ、サティ」


「なに?」


「私が王の座を降りたら、きっと国では“逃げた”って言われる」


「言わせておけばいいわよ。真実を知ってるのは、あなたと、私なんだから」


その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。


「……今でも、戦場で剣を振るいたいって気持ちはある。でも、それだけじゃダメなんだって、ようやく思えるようになった」


「うん。私は、それをあなたの口から聞きたかった」


馬車が揺れるたび、私の決意が少しずつ、確かな形になっていく。


「ルメリアでは、剣を教える以外にも、学びたいことがある」


「たとえば?」


「……誰かを導くって、どういうことなのか」


「ふふ。じゃあ、まずは生徒たちに優しく接することからね」


「それは……難易度が高い……」


思わず本音がこぼれて、サティが声を上げて笑った。


この笑い声が、心地いいと思えた。


私が王ではなく、ただの“フィーネ”でいられる場所。


それが、サティのいる場所なのかもしれない。

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