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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第8章 パステコ公国編

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剣聖フィーネ、決断の時(フィーネ視点)

公都ヴァルセリオンの学院に赴くのは、これで三度目だった。今日もまた、代理教員として招かれた。形式上は"代わりの講師"という立場だけど、王位の候補者として「市井を知る務め」として回されているのも、薄々感じている。


教壇に立つと、生徒たちは緊張しつつも、私の話に耳を傾けてくれる。剣の扱いだけではない。


「なぜ戦うのか」「力の意味とは」そういった精神面も、教えるべきだと思っている。


授業の終わり。チャイムの音に合わせて生徒たちが立ち上がる。


(さて、次は執務室に戻って――)


そう思いながら扉を開いた瞬間――廊下の奥、見慣れた銀の髪が目に入った。


「……サティ?」


その場に立ち尽くしていた彼女は、私と目が合うとすぐに歩み寄ってきた。


「フィーネに頼みたいことがあって来たの」


「私に?」


彼女の申し出は意外なものだった。


「私の領地ルメリアで教員をしてほしいの。剣の授業を」


一瞬、言葉を失う。まさか、彼女がそんな提案をするなんて。


「教員……かぁ。私にできるのかな」


「できるってば。さっきの授業、すごく分かりやすかったわよ」


(そんな風に言ってくれるなんて……)


どこかで、心が温かくなる。


「でも、今は私は公王の候補でもあるから……」


王位の候補。私にとって、それは重い鎖だ。名家の令嬢として生まれた責務。才能を買われた誇り。そして、逃れられない定め。


「ラインから聞いた。候補って、他にもいるのよね?」


「はい。三人です」

ラインが前に出て説明する。


候補は三人。実力、家柄、民の支持――そのすべてで測られ、選ばれる。


でも、私は――


「個人的には、あなたみたいな特別な人間が、王になるのは向いてないと思ってる」


そう言い切ったサティの言葉に、一瞬、心がざわめいた。


(……向いてない、か)


普通なら反発してもおかしくない言葉。けれど、不思議とそれは、否定ではなく、"私をよく知る者の忠告"に聞こえた。


「《剣聖》っていうのは、“戦場の英雄”よ? それが王になったらどうなるか、考えたことある?」


その問いに、私は返せなかった。


ずっと考えていたのだ。私が王になったら、本当に国を守れるのか? 剣を振るうことと、国を治めること――その違いに、まだ明確な答えを持てていなかった。


「私は、フィーネに勝てる者を知ってる」


サティの言葉が突き刺さる。彼女の真剣な瞳。その奥に、疑いは一切なかった。


私の中の"剣聖"がささやいた。


――戦うために生きるのではない。守るために強くなったのではなかったか?


サティの言葉は、きっとその答えの一つだった。


私は、静かに口を開いた。


「……私、ルメリアに行く」


ラインも、生徒たちも驚いた顔をする。


でも、迷いはなかった。


「このままじゃ、公王候補としてじゃなく、一人の人間としての自分が分からなくなりそうだから。少し、考えたいの。サティ。あなたの領地でなら、それができる気がする」


サティが小さく微笑んだ。


その笑みは、いつかの夜、私が剣を握って泣いていたときに、彼女がかけてくれた「大丈夫だよ」という言葉と同じ色をしていた。


私はもう一度、選びなおしたい。


剣を取る意味を。私が守りたいものを。


それが、今の私にできる、たった一つの決断だった。


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