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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第8章 パステコ公国編

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剣聖のゆくえ

野外実習の翌日。

朝露に濡れた道を、私たちの馬車は静かに進んでいた。

車輪が軋む音だけが、早朝の澄んだ空気を震わせる。


馬車の中では、フリックが退屈そうに頬杖をついていた。


「なあ、《剣聖》様って、今どこにいるんだろうな」

そう言って、隣に座るサティに顔を向ける。


サティは荷物の中から丁寧に折られた地図を取り出すと、器用に広げ、真剣な目で目を走らせた。


「この辺りに街があるわ。まずはそこで情報収集ね。パステコ公国にはあまり来ないから、何もわからないまま動いても無駄足になるかも」

彼女の冷静な判断に皆うなずき、馬車は近くの街へと向かった。



***


街の門をくぐると、馬車を止めてくれた商人に一礼する。

「ありがとうございました」

私たちは順に馬車から降り、通りの賑わいに目を細めた。


「それで、これからどうする?」とフリック。

「酒場に行ってみるか?」

「それとも、冒険者ギルド?」


私は少し考えてから答えた。


「まずはギルドね。情報の正確性では酒場より上だと思う」



***


冒険者ギルドの扉を開けると、馴染みのある喧騒が耳に飛び込んできた。

カウンターで受付の女性に声をかけ、掲示板の前で情報を探していたその時だった。


「――あなたは、《死神》さんですか?」


聞き覚えのある声に振り返ると、そこに立っていたのは、以前《剣聖》の護衛として共に行動した男、ラインだった。


「久しぶり。こんな所で会うとはね」


「僕も驚きました。今日はどうしてここに?」


「《剣聖》を探してるの。頼みたいことがあって」


「なるほど……。実は《剣聖》様、今は公都にいますよ」


「えっ、この辺じゃないの?」


「さすがに、もうこの街にはいないですね」


私は小さく息をつき、目を細めた。

「……そう。じゃあ、公都に行ってみるわ」


「もしよければ、案内しましょうか?」


「それは助かるわ」


ちょうどその時、ラインの背後から足音が近づいてきた。


「おい、探したぞライン。何してるんだ?」

声の主は、体格のいい男だった。彼はラインの隣に立ち、私に視線を向けて一礼する。


「はじめまして、レガリアだ。ラインの仲間だよ」


私は軽く会釈する。

「サティです。それで……あなたたち《剣聖》様の配下が、どうしてこんなところに?」


レガリアは肩をすくめ、苦笑した。

「実はな、今の大公が代替わりすることになって、新しい大公を選ぶ選挙が始まってるんだ。で、俺たちはその準備の一環ってわけさ」


「なるほど……。じゃあ、《剣聖》様は選挙に何か関わってるの?」


私の問いに、レガリアは言いにくそうにしながらも口を開いた。

「……君、何も聞いてないんだな」

「え?」


「《剣聖》様こそ、大公の候補者の一人なんだよ」


「――――えっ?」


衝撃のあまり、私は思わず言葉を失った。

剣技の化身のような存在である《剣聖》が、政治の頂点を目指すというのか?


「《剣聖》にそんな務まるの? 彼に政治は向いてないと思うけど……」

「俺も反対したさ。でも、本人の意志が固くてな」


私は顔を引き締めた。

「……とにかく、《剣聖》のところに行かないと。案内してくれる?」

「もちろん」


私たちは、静かに足音を揃えて公都への道を歩き始めた。

そこには、ただ《剣聖》を探すだけではない、もうひとつの物語が待っている気がしてならなかった。

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