束の間の休日
二日後に控えた野外演習。その準備をよそに、私はというと、自宅の屋敷でのんびりと朝を迎えていた。カーテン越しに差し込む陽光が心地よく、温かな紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。
「ふぅ……今日は生徒たちに会いに行くんだったよね」
小さく独りごちる。今回、私がこの野外演習に参加するにあたって、王様に一つだけ条件を出していた。――**「休暇をください」**というお願いを。
もちろん、ただの休暇ではない。目的は隣国にいる《剣聖》《聖女》《勇者》《魔王》に会うこと。
(ほんとは《賢者》にも会いたかったんだけど……)
「……まぁ、《賢者》なんてどこにいるか分かんないけどね」
準備の都合で迎えるのは四人までにしておいた。あまり多くを引き受けるのは現実的じゃないし、何よりルメリアに戻ってからの負担が倍増する。賢明な判断だった――たぶん。
朝食を食べ終えた私は、転移魔法の詠唱を口の中で唱える。
「転移――《王都・中央区》」
青白い光が足元に広がり、視界が一瞬白く染まる。次の瞬間、私は王都の中央広場に立っていた。相変わらず人通りの多い街だ。見慣れた風景に心が落ち着く。
そのまま学院へと足を向ける。
* * *
「サティ様ですね。お待ちしておりました」
学院の正門をくぐると、事務員と思しき女性が丁寧に頭を下げて迎えてくれた。私は軽く会釈で返す。
「ご案内します。今回の監督役としてご同行いただけること、大変光栄です」
私は笑って返す。
「そんな堅苦しくしなくていいわ。私はただの……通りすがりの受付嬢よ」
――ルメリア子爵、ギルド高位職員、壱級冒険者。それらの肩書きは、今は全部棚の上。
案内されるままに向かったのは、学院の南棟にある大講義室。どうやら今日の授業で生徒たちに野外演習の説明を行うようだ。
ドアを開けると、生徒たちのざわめきが一斉に止まった。まるで音が凍ったような空気。私は堂々と歩みを進め、教師の横に立つ。
「皆さん、今日は監督役の冒険者の方を紹介します」
教師がそう言って私を紹介すると、生徒たちの視線が集まった。私は軽く微笑んで、名乗る。
「はじめまして。このグループを担当することになった、サティです。短い間だけど、よろしくね」
他にも数名、教師がいる。
数秒の静寂のあと、生徒たちが拍手をし、やがて教室全体に波のように広がっていく。私は心の中でほっと息をつきながら、生徒たちの顔を一人一人見つめた。
すでに王の情報で詳細は把握している。だが、私は自分の目で確かめたかった。
挨拶が終わると同時に、私は自分が担当するグループの生徒たちを呼び集めた。自己紹介を交わしながら、一人一人の反応を見極める。
(ルメリアにも冒険者学院を作る予定だし、こういう現場の空気もちゃんと覚えておかないとね)
次の世代を育てるために、私自身もまた、学ばねばならないのだ。
そんな思いを胸に秘めながら、私は彼女たちの笑顔と元気な声に囲まれていた――。




