王命と学院依頼
私は今、王城の正門に立っている。
──陛下に、直接話があるからだ。
「陛下、門番からの知らせです。サティという方が、陛下に謁見したいと城に来ておりますが、いかがいたしますか?」
報告を受けた陛下は、紅茶のカップを片手に静かに言った。
「応接室に案内するように」
「かしこまりました」
その言葉に従い、私は衛兵に案内されて応接室へと足を踏み入れる。
「サティ、今日はどんな用だ?」
部屋に入ると、すぐに陛下が穏やかに問いかけてきた。
「実は、お願いがあって来たの」
「奇遇だな。私も《死神》に依頼したいことがあったところだ。まずは、君の要件を聞こうか」
「街の外壁を広げたの。だから、冒険者ギルドも街の中央に移動させたいと思ってるの」
「そんなことか。領土の管理は領主に一任している。好きにして構わん。ただし、事前に何をするかは報告するようにな」
「分かったわ。じゃあ、陛下の話は?」
私の用件が片付いたところで、今度は陛下に話を振る。
「サティ、王立学院は知っているな?」
「名前くらいは。確か、貴族のための学校でしょ?」
「もとはな。だが最近は、平民の入学も認めるようになった」
「……それって、いずれ争いの火種にならない?」
「今のところ、そのような報告は無い。うまくやっているようだ」
「それで、依頼っていうのは?」
「この学院、座学は教師が行うが、実技授業は冒険者が担当してきた。だが近年、冒険者の質が低下していてな……」
「その件なら、力になれるかもしれないわ」
「本当か?」
「本当よ」
「だが、どうやって?」
「前にも言ったでしょ? 街を改革してるって」
「ああ、確かに」
「今、私の領地では複数の分野を融合した学院を作っているの。まだ生徒はいないけど、準備は進めてる」
「複数の分野?」
「魔術、冒険者育成、ダンジョン探索、その他いろいろ。今後はダンジョンも作るし、適任の教師も招く予定」
「……適任の人物?」
「《剣聖》《聖女》《勇者》《魔王》よ」
「……すまん、聞き間違いか? 《魔王》と聞こえた気がしたのだが」
「《魔王》で合ってるわ」
「……お前、《魔王》と親しいのか?」
「うん、大丈夫。悪い子じゃないし、契約してるから」
「……もう何を言われても驚かんぞ」
「召喚しよっか?」
「しなくていい!」
――後でこっそり召喚してみるつもり。
陛下が溜息をついたところで、さらに続けて言った。
「実は、もうひとつ依頼がある。王立学院の野外実習、その監督をしてほしいのだ」
「野外実習?」
「詳しいことは学院の雑用係――エリィに聞いてくれ」
「了解。じゃあ、行ってくるわ」
私は軽く会釈して応接室を後にし、学院へと向かった。
* * *
王立学院。石造りの堂々とした門構えと広大な敷地。中庭には生徒らしき姿もちらほら見える。
正門を通り、事務棟に入り、窓口に声をかけた。
「あの、すみません」
「どうされましたか?」
柔らかい声とともに、受付にいた女性が笑顔で返してくる。
「エリィさんという方はいらっしゃいますか?」
「エリィは私ですが?」
「あ、よかった。陛下からエリィさんに、野外実習の監督について話を聞くように言われまして」
「……なるほど。では中へどうぞ」
私は彼女に案内され、学院の事務室へと足を踏み入れた。
ここから、王立学院での新たな日々が――静かに幕を開ける。




