王都にて、土地購入と決意の朝
翌朝、まだ陽が昇りきらぬうちに、私は転移魔法で王都へと足を踏み入れた。
今日の目的は、王城へ向かい陛下に新たな計画を提案すること――だったのだけれど、その前にどうしても済ませておきたい用事があった。
「家を建てるための土地を買わないとね」
私はまっすぐに商業ギルドへと向かう。
王都の中心部にそびえるその建物は、かつて幾度となく訪れた場所でもあった。だが、今日は少し気持ちが違う。新たな始まりのための、大切な一歩なのだ。
ギルドの扉を開けると、すぐに中から明るい声が飛んできた。
「ようこそ、商業ギルドへ!」
受付嬢と思しき女性がにこやかに頭を下げる。
「今日はどのようなご用件でしょうか?」
「土地を買いに来ました」
私がそう告げると、彼女は慣れた手つきで受付票のような札を一枚取り出し、手渡してくる。
「かしこまりました。こちらの番号が呼ばれるまで、ロビーでお待ちください」
「分かりました」
私は静かに頷き、席に腰を下ろす。待っている間、どんな家を建てようか、想像を巡らせる。ギルドに近い立地、広めの応接室、地下には避難用のルートを……それとも魔力供給用のクリスタル部屋も作ろうか。
「504番の方!」
はっとして顔を上げる。呼ばれたのは、私の番号だった。
案内された席に向かい、指定された504の札の前に腰を下ろすと、担当者が書類を準備しながら問いかけてくる。
「土地の購入をご希望とのことですが、その前に――商業ギルドへの登録はお済みでしょうか?」
「はい、済ませています」
「では、恐れ入りますが登録証の提示をお願いできますか?」
私はポーチから登録証を取り出し、相手に手渡した。
その瞬間、担当者の目が見開かれる。
「これは……! 失礼しました、まさか壱級の方とは!」
「気にしないでください。壱級が珍しいことは分かっていますから」
「いえ、つい驚いてしまって……失礼いたしました。それでは、土地のご案内をさせていただきます」
いくつかの候補地が提示された。地図と値段、面積、周辺環境――一通り目を通し、私は迷わず一番高額な土地を選んだ。
「こちらでよろしいですか?」
「お願いします」
契約書に署名し、土地の権利を手にした瞬間、少しだけ胸が高鳴った。
これで、新しい家の土台は整った。あとは、私の手で建て上げるだけ。
「では、土地の登記処理はギルドの方で完了させていただきます。本日はありがとうございました!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
一礼してギルドを出ると、私は空を見上げた。
朝の光が王都の石畳を照らしている。人々の足音が交差する中、私はひとつ大きく息を吐いて歩き出す。
「さあ、次は王城ね」
本来の目的を果たすため、私は王都の中心――あの玉座がある場所へと、足を進めていった。




