領主の帰還と新たな日々
「領主様! おかえりなさい!」
領地の門をくぐると、真っ先に声をかけてきたのは、顔なじみの領民たちだった。
「皆もお疲れ様。早速だけど、私がいない間になにか変わったことはあった?」
私の問いに、先頭にいた男が朗らかに笑いながら首を横に振った。
「特に何もありませんでしたよ。平和そのものです」
「なら良かったわ」
ホッと胸をなでおろす。王都であれだけ騒ぎがあった後だけに、我が領地に問題がなかったことは何よりの救いだった。
「領主様こそ、お疲れではありませんか?」
「疲れてはいないけど……今日はゆっくり休みたいの。だから、詳しい話はまた明日にしましょう」
「承知しました。ギルドマスターたちにそう伝えておきます」
「ありがとう」
私は軽く微笑んで返し、そのまま屋敷へと足を向けた。久しぶりの我が家――静かな寝室で目を閉じると、ほんの数分で眠りに落ちていた。
* * *
翌日。
私は屋敷にギルドマスターと騎士団の隊長を呼び、王都での出来事について説明を始めていた。
「なるほど、王都でそんなことがありましたか」
真剣な面持ちで話を聞いていたギルマスが深く頷く。
「だから、しばらくは他の業務を中断して、受付嬢として働こうと思ってるの」
「領主が受付嬢をしていたら、他の貴族たちに示しがつきませんよ」
苦言を呈したのは騎士隊長だ。けれど私は笑って、事もなげに返す。
「そこは心配しないで。姿は変えるから。“サリア”って名前で通すつもりよ」
「……分かりました。その姿の時は“サリア”と呼びます」
「よろしくね」
ふふ、久しぶりの受付嬢業務。懐かしさがこみ上げてくる。
* * *
それからというもの――
昼は受付嬢“サリア”としてギルドに立ち、夜は冒険者として、周囲の森を開拓する日々が続いた。
領土拡張のために、私は自ら先頭に立って草木を刈り、獣道を切り開き、時にはモンスターと戦いながら、土地を整えていく。
そしてある日、ついに開拓が終わった森を見渡して、私は静かに呟く。
「後は、外壁を作るだけね」
完成した領域は王都に匹敵するほどの広さだ。だが違う点もある――それは、地下に広がる街が存在すること。万が一、敵の襲撃などがあった場合、領民たちが安全に避難できる場所を確保しておきたかった。
「ちゃちゃっと作っちゃうか、外壁」
森の開拓を終えた翌日、私は一日だけ休みを取ってから外壁建設に取り掛かった。魔力を最大限に注ぎ込み、結界と融合させた石造りの壁を形成していく。
三十分後。
「……あとは、旧外壁を壊すだけね」
疲れた身体に魔力を戻す時間をとり、翌日、私は古い外壁を破壊した。風が新たな空間を通り抜け、開放感と共に新時代の到来を告げるようだった。
「さて……ギルマスのところに行くだけね」
私にはまだ、やりたいことがある。拡張に合わせて、ギルドの位置も変えたい。もっと利便性の高い場所に。
「良い顔してくれるといいな……」
そう呟きながら、私は歩き出す。ギルドへと続く、新しくなった領地の道を――。




