静かなる侵入者たち
時を同じくして――国王陛下と《剣聖》《聖女》を迎えたパレードが賑やかに進行している裏で、王城は不穏な気配に包まれていた。
「君たち、ここは陛下の城だ。速やかに立ち去りなさい」
王城の正門を守る門番が、目の前に現れた黒衣の一団を警戒する。
その言葉に、一団の先頭に立つ女が薄く笑った。
「分かってるよ。でも――おやすみ」
女が指先で小さく印を描き、そっと呟いた瞬間、門番は目を見開く暇もなくその場に崩れ落ち、深い眠りへと落ちていった。
「魔法か……」
後ろの男たちは息をのむ。だが、リーダー格の女は動じることもなく、振り返らずに言い放つ。
「王城の中に陛下はいない。今日のパレードで王族の多くは不在よ。……つまり、今が最適ってこと」
「で、今回の依頼内容……やっぱり陛下の暗殺ですか?」
そう尋ねた男に、リーダーの女は振り返り、深いため息をついた。
「……あのねぇ。依頼書、ちゃんと読んだ?」
「いや、その……なんとなくで……」
「バカ言わないで。今回の任務は『第二王女の拉致』。殺すのは論外。わたしたちが手を下すのは、あくまで緊急時だけよ」
「了解です……あぶねぇ、怒られるとこだった……」
「気をつけなさい。こういう仕事で一番怖いのは、味方の不注意なのよ」
女の眼光が鋭くなったのを感じた男たちは、一斉に背筋を伸ばした。
「それと、あの装置。忘れてないでしょうね?」
「はい!妨害装置、ちゃんと持ってきてます」
男が懐から取り出したのは、黒い金属製の魔道具だった。ミーティアなどの通信装置を封じ、外との連絡を一切断つ妨害用の術具だ。
「それを第二王女の部屋の前に設置して。万が一、通信されると厄介だから」
「了解です」
一人が頷いてその場を離れていく。
城内の警備は、パレードによって最小限に減らされていた。かろうじて残された兵たちも、眠らされるか、襲われて動けなくなっていく。
「……さて、始めましょうか」
リーダーの女が呟いたとき、王城の奥に潜む静かな闇が、ゆっくりと牙を剥き始めた。
事件は、もう始まっていた。




