栄光と混乱の行進
「ユリア様だ!」「ルア様もいるわよ!」
歓声が王都の大通りに響き渡る。パレードが始まり、私たち3人――《剣聖》フィーネ・ダイナム、《聖女》ルア・シエン、そして私サティ・フライデー――は国王陛下と共に、王城を出発して決められたルートを進んでいた。
道の両脇に並ぶ民衆たちは皆、歓迎の声をあげていた。色とりどりの花びらが宙を舞い、子供たちの歓声がパレードに華を添える。だけど、その視線の一部は、明らかに私に向いていた。
「2人と一緒にいる人って誰だ?」
「2人と並んで歩けるくらいなんだから、きっとすごい人なんじゃない?」
「いや、ただの護衛じゃないか?」
「……あれ? どこかで見たような……」
聞こえてくるささやき声は好奇心と憶測に満ちていた。私は気にしていないふりをしながら、横目で隣を歩くユリアを見た。
「サティ、人気だね」と彼女はにやりと笑う。
「人気って訳じゃないわよ」
私は肩をすくめながらも、顔がほんのり熱くなるのを感じた。だが、それを振り払うように、国王陛下が笑いながら声を上げた。
「《死神》を知らぬ者はこの国にはおらぬからなぁ!」
――しまった。言わなくていいことを!
その一言で周囲の視線が一気に変わる。尊敬、畏れ、そしてどこか物珍しさの入り混じった空気。
「《死神》って……あの伝説の……?」 「でも、あの人が……?」 「嘘でしょ? 可愛すぎるんだけど」
「《死神》を知らない人は居ないけど、私がそうだって知ってるのはこの国でもほんの一部だけだったのに……」私は苦笑を漏らした。
「まぁ、こんな可愛い子が《死神》って言われても、実力知らなきゃ信じないかもね」
ルアがそう言って微笑む。
「うん、サティは可愛いし」
フィーネまでさらりと肯定してくるから困る。
「……はいはい、ありがとう。でも陛下のせいで全部台無しよ」
「そろそろ雑談はおしまいだ」
陛下の一声で、私たちは手を振る役目に意識を戻す。
民衆たちは熱狂し、花束や手紙を差し出してくる者もいた。だが、混乱はなく、パレードは無事に進行していた。
やがて予定していたルートの終点が見え始め、王城が視界に戻ってくる。あとは戻るだけ――そう思っていた矢先。
「……陛下、どうかされましたか?」
国王の表情が一瞬、翳った。さりげなく尋ねると、陛下は低く静かに告げた。
「城が、賊に襲撃されたらしい」
空気が、一瞬で凍りついた。
「パーティは事件が解決してから、ですね」
私は即座に言った。場違いな浮かれ気分は、もう必要ない。
「悪いが、三人とも頼んだぞ」
陛下の言葉には、全幅の信頼が込められていた。
「任せてください。こういう時のための専属冒険者ですから」
私は背筋を伸ばして答える。
「……やはり、お前を王家専属冒険者に任命した私の目に狂いはなかったな」
陛下の口元に浮かぶ満足げな笑みに背を押され、私は剣の柄に手をかけた。
「さて――迎え撃つ準備は出来てるわよ」
次の戦いが、王城で始まる。
私は仲間と共に、国を守るために走り出した。




