光と栄養の前夜
翌朝、王都の空は雲ひとつない晴天だった。
クラウン王国の王城。荘厳な玉座の間にて、国王の威厳ある声が響く。
「冒険者サティ。――《剣聖》と《聖女》の護衛、ご苦労であった」
「お二人が無事に到着されたこと、それだけで十分です」
サティ・フライデーは深く一礼し、静かに答える。
その隣には、昨日領地メルリアに泊まった《剣聖》フィーネと《聖女》ルアの姿があった。
「サティさんには大変お世話になりました」
ユリアが笑顔で言うと、ルアも続ける。
「はい。おかげで安心して王都に入ることができました」
「そうか……それは良かった」
王は微笑を浮かべながら、玉座から立ち上がる。
「今夜は、ぜひ城に泊まっていただきたい。明日には国中を挙げて歓迎パレードを行う。そして夜には、盛大な祝賀パーティを開く予定だ」
「パレードにパーティ……ずいぶんと豪華ですね」
サティが少し目を丸くしながら言うと、国王は誇らしげにうなずいた。
「それだけ、諸国の英雄を迎えるというのは特別なことなのだ。今夜はゆっくりと休んでくれ」
その言葉に、フィーネとルアが顔を見合わせ、サティに向き直る。
「サティさんも、一緒に泊まりませんか?」
「私たちともっと話したいです!」
サティは一瞬驚いたように目を見開き――そして柔らかく微笑んだ。
「うん。泊まるよ。……フィーネとルアと一緒に夜を過ごせるなんて、そう何度もあることじゃないからね」
「やった!」
フィーネが思わずガッツポーズを取り、ルアも小さく微笑んで喜びをにじませる。
その夜、王城の貴賓室に用意された広間で、三人はまるで旧知の友人のように語り合った。
旅の話、魔法の話、故郷の文化。
誰かに気を遣うことも、立場を意識することもなく――
ただ、1人の女の子として、夜更けまで語り合う時間。
「……ねぇ、サティ」
ふとフィーネが声をひそめる。
「死神って呼ばれてるけど、全然そんな感じしないよね」
「そう?」
サティはお茶を啜りながら返す。
「見た目は小柄で優しそうだし、話してるとすっごく落ち着くし。むしろ、癒し系の《守護神》って感じ?」
「ふふ……それは言いすぎよ」
笑いながらも、サティの心の中は少しだけ、温かくなっていた。
やがて、夜も更け――
それぞれの部屋に戻り、明日の華やかな舞台へ備えることにした。
そして翌日。
王都の大通りには、朝から大勢の市民が詰めかけていた。
街の中央通りには色鮮やかな花が撒かれ、王国の旗がはためく。
――クラウン王国史に残る、盛大な歓迎のパレード。
《剣聖》フィーネ・カステン、《聖女》ルア・シエンの来訪を祝う、光と誇りの儀式が始まろうとしていた。
その中で、ひときわ目を引く漆黒の衣装を纏った人物。
民の間でささやかれる異名――《死神》。
しかしその実、彼女こそがこの場のすべてを裏で支える“守護者”なのだ。
パレードの華やかさの裏で、サティの視線は冷静に街の動きを追っていた。
――何事も起こらないことを祈りつつ。




