会議
「失礼します、マスター」
重厚な扉が静かに開かれ、一人の女性が入室してくる。
ギルド本部副マスター、レネア。
黒曜のような髪を結い上げたその姿は、冷静と威厳をまとっていた。
「どうした、レネア?」
机に広がる書類に目を通していたギルドマスター、ハイドが顔を上げる。
「こちらが、先日のダンジョン攻略に関する報告書になります」
ハイドは報告書を受け取り、何気なくページを捲る。
だが次の瞬間、彼の眉間が深く歪んだ。
「ご苦労。職務に戻って──」
そう言いかけたところで、視線がある一文に留まり、言葉を止める。
> 《倒れていたアースドラゴンの頭部は、まるで圧壊されたように潰れていた》
《討伐者の姿は確認できず。ただし、“黒マントの人物”が現場から立ち去る姿を複数が目撃》
《記録されていない新規個体の可能性あり。戦闘手段・痕跡・魔力反応すべて不明》
「……レネア。至急、《白金の盾》と《黄金の剣》を招集してくれ」
「問題が……?」
「ある。しかも、これは軽視できない類のものだ。君も同席してくれ」
「了解しました」
* * *
数日後──ギルド本部・会議室。
《白金の盾》《黄金の剣》のメンバーが揃って座っていた。
ハイドの表情は厳しく、重苦しい空気が会議室を包んでいる。
「さて、呼ばれた理由は分かっているな?」
ガウンズがうなずく。
「先日のダンジョン攻略について……“先約”の件ですね」
「うむ。その者が何者か、まったく記録がない。“死神”という異名が独り歩きしているようだが……それだけだ」
「姿は見えませんでしたが、確かに……アースドラゴンは討伐されていました」
そのとき、突撃屋のアランが手を挙げた。
「だったらさ、マスター。そいつ、探さねぇか?」
「アラン、上司には敬語を使えと──」
「悪ぃ、ついな」
注意を軽く受け流すアランに、ハイドはため息をつく。
だが、レネアが鋭く言葉を続ける。
「“死神”が個人でA級モンスターを討伐できる存在であるならば……ギルドとしても無視できません。味方なら良い。しかし、もし敵対すれば?」
会議室が静まり返る。
「……仮に、所属のない異能者が複数存在するとしたら?」
「“個人の力”をここまで警戒するのは、久しぶりですね」
ハイドは口元に手を当てながら、静かに言う。
「サティ……まさか、君ではないだろうな……」
誰にも聞こえぬほどの声で。
* * *
一方その頃、ギルド裏手の食堂。
「う〜ん、今日のカレーは当たりね♪」
スプーンを片手に、もぐもぐと頬張るサティ・フライデー。
表情は、どこまでも穏やかで。
誰も知らなかった。
彼女こそが、ギルド本部が追う“死神”その人だということを──。