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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第3章 王女護衛編

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受付嬢業務と残業

王都での研修を終え、私は久しぶりにトキワ支部へと戻ってきた。


「あの頃より、ほんの少し世界が違って見える」


そんなことを思いながらギルドの扉を開けると、すぐに支部マスターに呼び出された。


応接室の扉を開けた瞬間、マスターの不機嫌な声が飛んできた。


「サティ、連絡がなかったから心配してたんだよ。今まで何してたの?」


「申し訳ありません。戦士として、ユーリシア姫殿下の護衛任務についておりました」


私としては、正直に答えたつもりだった。しかし——


「な、に……? 戦士? 護衛? 受付嬢のお前にそんなことできるわけないだろう!? 嘘をつくなら、もっとマシな作り話にしろ!」


ああ、やっぱり信じてもらえない。


戦士長は信じてくれたのに。王様だって、あれだけ歓迎してくれたのに。どうしてこの人だけ、私を「受付嬢」の枠から出してくれないんだろう。


「嘘じゃないです! 本当です!」


思わず声が強くなった。でも、マスターは手を振って言った。


「……まぁいい。休んでいたことはもう問わない。早く業務に戻りなさい」


「……分かりました」


私にできるのは、ただ仕事をこなすこと。粉骨砕身で一日中働いた。


ようやく家に帰り、湯船に浸かって体を休める。湯気と共に、心のもやが少しずつ溶けていくのを感じながら、ついそのまま眠気に負けて早めに床についた。



* * *


翌朝。まだ目が覚めきらぬまま、窓辺に一羽の伝書鳩を見つけた。


「誰からの……?」


足にくくられた手紙をほどいて開くと、王家の紋章が封蝋に押されていた。


「王様から……?」


手紙にはこう書かれていた。


> 冒険者サティ。元気にしているだろうか。貴殿に頼みたいことがあるため文を書くことにした。詳しい話は直接会って話したい。近日、王城へ参られよ。




「……なるほどね。明日は休みを取って行くか」


出勤時、マスターに「明日は王様と謁見するため休みます」と報告すると、さすがに文句は言われなかった。王の名前が出れば、どんな現場でも従うしかない。


その日の業務に入ろうとした矢先、掲示板の横に貼られていた張り紙が目に入った。


——《職員ルリ・アステリア、異動通知》。


「そうか……ルリ、異動するのね」


行き先の記載はない。本人のみに伝えられる異動、ということなのだろう。だから、これは静かな別れだ。


「私は私で頑張る。ルリも新しい場所で輝けますように。また、いつか……」


私は背筋を伸ばしてカウンターに立った。


「いらっしゃいませ。どの依頼をお受けになりますか?」


明るく、笑顔で。冒険者たちの背中を送り出すのも、私の大切な仕事の一つだ。



* * *


営業時間が終わり、帰ろうとした私に、サブマスターが声をかけてきた。


「ちょっと。サティ、お願いがあるの」


「なんでしょうか?」


サブマスターが私に頼みごとをするなんて珍しい。私は少し警戒しながら話を聞いた。


「この資料、処理してほしいの」


目を通してすぐに違和感を覚えた。


「……でも、これって私の仕事じゃなくて、サブマスターの管轄じゃないですか?」


「そうよ。私の仕事よ」


「じゃあ、なんで……?」


「決まってるでしょ? めんどくさいからよ」


腕を組んで、堂々とした態度。開いた口がふさがらなかったが、グッと飲み込んで言った。


「……分かりました。やらせていただきます」


——あなたみたいな立場の人が、そんな理由で人に押しつけていいんですかね。


心の中でそう突っ込んだが、声には出さない。今、波風を立てるつもりはない。


残業を終えて帰宅すると、時計はすでに予定より二時間も進んでいた。


「……まぁ、明日は休みだからいいか」


帰り道で買ったケーキをひと口。甘さが今日一日の疲れを和らげてくれる。


「明日は王様のところに行かないと……」


湯に浸かりながら目を閉じると、あっという間に眠気が襲ってきた。


——あの王様は、今度はどんな話を持ちかけてくるのだろうか。


答えは、明日わかる。

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