久しぶり、魔王
「久しぶりじゃな、サティ」
入口の扉から聞き覚えのある声が聞こえてきたためサティはすぐに視線を向ける。
「・・・」
この声、どこかで聞いたことあるのよね。
サティは目の前にいる少女のことを思い出そうとするがなかなか思い出せない。
「なんじゃ、我のことを忘れたのか?」
この特徴的な話し方をする人物は珍しい。
「もしかして・・・ラミル?」
「そうじゃよ!やっと思い出してくれたか」
「久しぶりね。今まで何してたの?」
近付いてくるラミルに私は言葉を紡ぐ。
「お主に言われた通り、世界中を旅しておってな」
「初めての旅は楽しかった?」
「楽しかったぞ!良い経験が出来た」
「喜んでもらえて嬉しいわね」
「それでなんじゃが、、」
ラミルは申し訳なさそうに私を見つめてくる。
「なに?」
サティはこの視線に何か嫌な予感がしていた。
「大変、言いにくいんじゃが、しばらく養ってはくれぬか?」
「・・・」
私の脳はラミルの言葉を聞いて思考が停止した。
養う?誰が誰を?
訳が分からなかった。
「詳しく聞かせて」
「うむ」
ラミルは話を続ける。
「実は───」
「なるほどね。つまり、お金が無くなったと」
「迂闊じゃった。まさかこの世界にあれほど美味な食材があったとは」
「お金無くなったってこと?」
「うむ。財布の中身は空っぽじゃ」
「そんな大きい声で言わないで」
「とりあえず、今夜。私の家で話し合いましょ」
「養ってくれるのかえ!助かるぞ」
「誰も養うなんて言ってない!何があったか詳しく聞きたいの!」
「ケチじゃな」
「なんですって?」
「なんでもないのだ!」
「なら夕方になったらここに来て」
そう伝えるとラミルは飛び出ていった。
「サティ、今の子は知り合いなの?」
紅茶を片手に一息ついているとルリが声掛けてくる。
「まぁね、ちょっとした腐れ縁みたいな感じ」
流石に本当のことは言えない。
ラミルは元々、ダンジョンのボスであり六大魔王の一角。それを私が転生させただなんて言えるはずがない。
ルリに隠し事はしたくないがこの秘密だけは墓場まで持っていくと心に決めている。
「それより、ギルマスが呼んでたよ」
「分かった。ちょっと行ってくる」
***
「失礼します」
「どうぞ」
私はノックをしてから声を出して部屋に入室する。
「立ち話もなんですしソファに座ってください」
「ありがとうございます」
ギルマスに促されるままソファに座るサティ。
「受付嬢の仕事は上手くいっていますか?」
「なんとかやれています」
「すみません。人手不足なもので」
「気にしないでください。それで御要件は?」
「実は王都から知らせが届いておりまして1週間後に王宮まで来て欲しいとのことです」
「手紙には他に何か書かれていましたか?」
「いえ、詳しい内容は現地で説明するとだけ」
「分かりました。1週間後ですね。ついでに人員増加も頼んでみます」
「ありがとうございます」
私は早めに仕事を切り上げてラミルが待っている扉の近くに向かった。
「サティ。遅かったな」
「ギルマスと話してたら遅れた」
「仕事で遅れたのなら仕方ない」
「帰ろっか。家に」
私たちは帰路に着く。




