王家専属冒険者
王城の謁見の間に、静寂が広がっていた。
国王アーノルド陛下の前にひざまずいた私――サティ・フライデーは、厳かすぎる空気に少し緊張しながらも、落ち着いた声で挨拶を交わしていた。
「サティよ。我が娘が迷惑をかけたな」
「気になさらないでください。……おかげで、ユーリシア様と友人になることができました」
「……その言葉、感謝する。心が広いな」
「そんなことありません」
まさか王様から直接、礼を言われる日が来るとは思わなかった。
内心では戸惑っていたが、表情は変えず、礼儀正しく頭を下げる。
しかし、陛下は一度私から視線を外し、逡巡するように眉を寄せた。
「ところでな……冒険者サティに、頼みがあるのだ」
「依頼……ですか?」
「いや、依頼というよりは……少し違うのじゃが……」
はっきりしない物言いに、私は王様の顔をじっと見つめた。
その隣で、王妃様が優しく微笑みながら小さく促す。
「陛下、話を続けてくださいな。こんな時ばかり引き伸ばさなくてもよろしいでしょう」
「……わ、分かっておるわ!」
咳払いを一つしてから、ようやく陛下は本題に入った。
「サティ――王家専属の冒険者になってくれんか?」
「……王家、専属ですか」
その言葉の意味をすぐに理解できず、私は思わず聞き返した。
一国の王家が、たった一人の冒険者に専属契約を持ちかける――それが、どれだけ特別で、どれだけ重いことか。
「クラリス、あれを持ってこい」
「かしこまりました」
奥に控えていたメイド――クラリスが静かに頭を下げ、宝物庫へと足を運んでいく。
戻ってきた彼女の手には、銀と蒼の細工が施された一振りの小刀があった。
「これは……」
「王家の紋章が刻まれた、小刀じゃ。正式に専属となれば、これを授ける」
目の前で差し出された小刀は、まるで意思を持っているかのように、鋭く、美しかった。
「……立派なものですね」
「なってくれるか?」
陛下の真剣な瞳が、私の内心を探るように揺らめいていた。
だが、私はすぐに答えを出すことはできなかった。
「――少し、時間をいただけますか? あと二日は王都に滞在する予定なので……帰る時までに、必ずお返事をいたします」
「……うむ。急いでおるわけではない。帰る時に、返事を聞かせてくれればそれでよい」
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
私は丁寧に一礼し、静かに謁見の間をあとにした。
* * *
王都の宿に戻った私は、ベッドに身体を投げ出した。
「疲れたなぁ……」
大理石の床、荘厳な空気、王族の視線。慣れない空間に緊張しっぱなしだった。
目を閉じると、脳裏に浮かぶのは――ユーリシアの笑顔だった。
「……あと二日。どうするかな」
王家専属――それは、名誉と責任が伴う立場だ。
だが同時に、それは“選ばれし者”だけが得られる絆でもある。
「明日、もう一度……会いに行こう。きっと、あの子なら……答えのヒントをくれるはずだ」
私は静かに息を吐き、深く深く眠りへと沈んでいった。
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物語が3章に入りました。
ここら辺から王族との関わりも多くなってくる予定です。
サティの物語はこれからどうなっていくのか。どのような展開になるのか。
3章は4章までの繋ぎなので長くはならないと思うから楽しんでください。私も楽しみながら書きたいと思います。
それでは次回のお話でまたお会いしましょう。




