収穫祭
ルメリアに戻ってから数日。
サティの日常はすっかり「受付嬢モード」に戻っていた。
朝、制服に着替え、ギルドのカウンターに立つ。旅を共にしたルリは書類整理を手伝ったり、近くの席に座って魔道書を読んでいたりと、自然と職場に溶け込んでいた。
「サティさん、この依頼の報告お願いします!」
「はい、討伐証拠はこちらで確認しますね」
冒険者たちが次々にやってくる。
以前と違うのは、サティが誰よりも迅速に処理できることだ。
スキルで魔力の流れを把握し、偽造や虚偽を一瞬で見抜ける。
そのため不正申告は一件も起きなくなった。
「サティさんがいると楽だなぁ」
「前よりもギルドがスムーズに回ってる」
冒険者たちの信頼も厚くなっていく。
サティは微笑みながらも、内心では少し照れていた。
───でも、こうして普通に仕事をしている時が一番落ち着くな。
昼休み。
ルリがそっと差し入れを持ってきた。
「今日は一緒に食べませんか?」
「ありがとう。……ふふ、ルリの手作りサンドイッチ?」
「ええ。朝から頑張ってみました」
そんな他愛ない時間が、サティにとっては何よりの癒しだった。
冒険も戦いも大切だけれど、受付嬢として過ごす日々が、やっぱり自分の原点なのだと実感する。
───そして、夕方。
今日の業務を終えたサティは、窓から夕焼けに染まるルメリアの街を眺めた。
「平和だなぁ……」
彼女の心に、不穏な影はまだ一切差し込んでこなかった。
***
ルメリアに帰還して数週間。
季節は収穫期を迎え、街はにぎやかな「収穫祭」の準備に沸いていた。
広場には屋台が立ち並び、色鮮やかな布や旗が風に踊る。
「サティさん、今年はギルドも出店するらしいですよ」
「えっ、ギルドが? 何をやるの?」
「討伐依頼の展示と、ちょっとした余興みたいです。冒険者たちの腕試し大会とか」
ルリが手にしたチラシを見せると、サティは苦笑する。
「……結局、冒険者向けの催しなのね」
けれど内心は少し楽しみでもあった。
当日。
ギルド職員も全員が祭りに駆り出され、サティも受付嬢として屋台のカウンターに立った。
「ギルド特製ポーション、いかがですかー! 一日限定販売ですよ!」
普段は冒険者しか口にできない回復薬を、一般市民が手にできるとあって長蛇の列。
サティは笑顔で応対しながら、やっぱり人と触れ合う仕事が好きだと実感する。
合間にルリと一緒に街を回れば、焼き菓子の甘い香り、果実酒の鮮やかな香り、楽団の奏でる笛や太鼓の音。
「サティさん、あっちに綿飴がありますよ」
「えっ、懐かしい……。子供の頃以来かも」
ふたりは並んで一つの綿飴を分け合い、頬をほころばせた。
夜。
祭りの締めくくりは、中央広場での舞踏と花火。冒険者たちも、商人も、市民も、誰もが笑顔で踊り、歌い、空を見上げる。
サティはルリと肩を並べて花火を見上げながら、静かに呟いた。
「……こういう時間が、ずっと続けばいいな」
───そして、祭りの夜は更けていった。




