日常
昼下がりのギルド。
依頼を受けに来る冒険者の波がひと段落し、サティは小さく息をついた。
「ふぅ……午前の受理はこれで全部か。午後は新人たちの講習会ね」
そう呟いたところで、カウンターに顔を出したのは、見覚えのある青年だった。
まだ鎧も新しく、緊張気味に背筋を伸ばしている。
「す、すみません! 探索系の依頼を受けたいんですが……」
新米冒険者の少年、リオン。
初めて依頼を受けた日、緊張のあまり契約書を逆さまに持っていたのを思い出し、サティの口元が緩む。
「リオンくんですね。依頼は《薬草採取》がおすすめです。森の入口付近なので危険は少ないですよ」
「は、はい! ……でも、その、もし魔物が出てきたら……」
「その場合はすぐに撤退してください。命あっての冒険ですから」
真剣な眼差しで伝えると、リオンは力強く頷いた。
そのやり取りを見ていたベテラン冒険者たちが、ニヤニヤしながら口を挟む。
「おーおー、相変わらず新人には優しいなぁ、サティさん!」
「俺らにもその笑顔、向けてくれよ?」
「はいはい、冗談はその辺にしてください。あなたたちは依頼達成率が低いんですから、まずはそっちを改善してくださいね」
にっこりと微笑んで言い切ると、ベテラン組は「ひぃ!」と声を上げて逃げていった。
その様子に、ルリがカウンターの端でクスクス笑う。
「やっぱり、サティの笑顔は怖いんだね」
「褒めてるのか、それ」
「もちろん。だって……頼りになる受付嬢って感じだもん」
サティは少し照れたように書類を片づけ、再びカウンターに視線を戻した。
「午後からの講習会の準備、終わらせないとね」
街を守り、人を導くのも、この場所での大事な役割。
たとえ影が迫ろうとも、この日常がある限り、自分は折れない───。




