旅の終わり
「ユーリシア様、もう少しで街に着きますよ」
竜車での旅も、これで2日目。
王都にほど近い宿場町が見えてきた頃、私は軽く身を起こしてそう声をかけた。
「ふふ、あと少しでサティとの旅も終わりですね」
竜車を降りた後、宿の食堂で食事をとっていた時、ユーリシアはふと寂しそうに呟いた。
「また会えますよ」
「だって、王都に来るまでに三日もかかるんですよ? サティ、転移魔法とか……そういう便利な手段って無いんですか?」
「あるわけないじゃないですか」
そう言いながら、内心では苦笑する。本当はあるのだ。
だが――それは“使えない”力。王女であるユーリシア様に見られるわけにも、話されるわけにもいかない。
「ふーん。無いなら仕方ないですね。でも……たまには、遊びに来てくださいね」
「もちろん。またすぐ会いに行きますよ。だから 今日は、しっかり食べて早く寝ましょう。明日も早いですから」
「はいはい、わかりました」
微笑む彼女を見て、私はほんの少しだけ、自分の胸が温かくなるのを感じた。
* * *
翌朝、朝焼けとともに出発した私たちは、無事に王都へと到着した。
「やっと着きましたね……」
王都の門をくぐった時、ユーリシアがそう呟いた。
その顔は安堵というより、旅の終わりを惜しむような色をしていた。
「あの店のスイーツ、美味しいんですよ! 行きましょう!」
「王様に会うのが先です」
「もー……いつもそればっかり」
「それより、姫様。いつになったら“敬語やめてくれるのか”って、ずっと言ってますよね?」
私は苦笑しながら肩をすくめる。
「仕方ないじゃないですか。姫様たち王族は国民の憧れなんですよ? そんな人にタメ口なんて……畏れ多いです」
「……せめて、二人きりのときくらい、敬語やめてよ」
「そう言われましても……」
「これは命令です!」
ぴしっと人差し指を立てて命じてくるユーリシアの姿に、思わず吹き出しそうになる。
「……わかりましたよ。そう言うのなら、二人きりのときは敬語をやめさせてもらいます、ね?」
「ふふっ、ありがとう」
「……なら、姫様も、敬語はナシで。ちゃんと“対等”に話してもらわないと、割に合わない」
「わかったわよ、サティ」
お互いに見つめ合い、少しだけ照れくさく笑った、そのときだった。
「失礼します」
扉の向こうから、メイドの柔らかな声が響いた。
「姫様、サティ様。国王陛下がお呼びです」
「分かりました」
ユーリシアは凛とした声でそう返し、私に微笑んだ。
「――じゃあ、謁見の間へ、行きましょう」
彼女の瞳には、王女としての気品と――
私だけが知る、旅の記憶を抱く少女の優しさがあった。




