久々の受付嬢
黒幕を討ち、ルメリアへと帰還した日、私はギルマスに呼ばれていた。
「サティさん、冒険から帰ってきて疲れているかもしれませんが、ギルドでは書類が溜まっていて大変なんです。しばらく出勤してください」
そうギルドマスターに言われるサティ。
「領主の仕事もあるんだけどな」
それとなく断る理由を言ってみるも「領主の仕事があるなら冒険なんてしてる場合ですか!」と言い返されてしまう。
「わかった。しばらくは出勤するから」
こうして私は久しぶりに受付嬢をすることになった。
ギルマスに呼ばれた日の翌朝。
サティは、久しぶりにギルドの制服へ袖を通していた。
深い藍色のベストに、白いブラウス。胸元には小さなギルドの徽章。
それを鏡で確認すると、ようやく自分が日常へ帰ってきたのだと実感する。
「……よし」
軽く息を整え、扉を開く。
冒険者ギルド〈ルメリア支部〉の受付カウンター。
朝から次々と依頼を受けに来る冒険者たちで、すでに賑わいを見せていた。
「おはようございます、サティさん!」
「お、帰ってきたな! 待ってたぜ!」
常連の冒険者たちが声をかける。
《死神》と呼ばれるサティも、ここでは《頼れる受付嬢》だった。
「おはようございます。順番に依頼を受け付けますので、慌てずに並んでくださいね」
柔らかな笑みと共に書類を受け取り、冷静に処理していく。
剣士、魔術師、商人、そして新人冒険者。
それぞれの希望を聞き分け、適切な依頼へ導き、時にはアドバイスも添える。
その手際の良さに、周囲は改めて「やっぱりサティだ」と感嘆の声を漏らす。
だが───。
(黒幕が最後に言った『主』……あれは、まだ解明していない)
書類に判を押す手を止めずに、サティは心の奥で考えていた。
表向きは変わらぬ受付嬢の日常。
だがその裏で、再び影が動き出そうとしている気配を、彼女は確かに感じていた。




