ルメリア到着
祭壇を後にしたサティたちは、森の小道を踏みしめて歩いていた。
先ほどまで瘴気に覆われていた木々は、いまや鮮やかな緑を取り戻しつつある。鳥のさえずりや、風にそよぐ枝葉の音が、まるで祝福のように耳に届いていた。
「……静かね」
ルリがぽつりと呟く。
緊張の糸が切れたのか、彼女は少し眠たげな顔で空を仰いでいた。
「もうすぐ抜ける。この森を越えれば、ルメリアの街並みが見えるはずだ」
サティの声は落ち着いていたが、その心にはまだ戦いの残響が渦巻いていた。
黒幕の最期の言葉。『主』と呼ばれた存在。
あれが何を意味するのか。いずれ確かめなければならない。
だが今は。
「まずは街へ戻って、皆に報告だな」
「うん。ギルドの子たちも心配してるはずだよ」
ルリの笑みは弱々しいが、それでも安堵に満ちていた。
やがて森を抜けた一行の視界に、広大な平原が広がった。
その先に、陽光を浴びて輝くルメリアの姿が見える。
遠くからでも分かる賑わいと、空を行き交う鳥の群れ。
それは、戦いを終えた者たちへの何よりの褒美のように思えた。
「帰ってきたわね……」
サティが小さく呟く。
彼女の隣で、ルリが嬉しそうに胸に手を当てた。
「ただいま、だね」
二人の背後で、クラウディアが静かに目を細める。
その横顔は安堵を湛えていたが、同時にどこか思案を秘めていた。
「……影はまだ消えません。けれど、今は束の間の休息を」
その言葉は風に溶け、誰に届くでもなく消えていった。
ルメリアの街へ続く道。
サティたちはその先へと足を踏み出した。
旅路は終わらない。だが、今は確かに“帰還”の時だった。




