黒幕討伐
───古代の森、戦いの跡。
霧散した瘴気の残滓は風に攫われ、夜明けの光が森を照らしていく。
長く閉ざされていた場所に、ようやく静寂と安らぎが戻った。
サティは杖を支えに立ち尽くし、肩で息をしていた。
黒幕の断末魔がまだ耳に残っている。
「……均衡、ね」
ルリが駆け寄り、彼女の腕を支える。
「サティ、もう無理しないで。身体、限界だよ……!」
サティは小さく笑みを浮かべる。
「大丈夫よ。あなたのおかげで……勝てた」
ルリはその笑顔に安心し、ぎゅっとサティの手を握った。
───その時。
クラウディアが姿を現した。
白い外套を翻し、森を見渡すと、淡く微笑む。
「見事です、サティ。ですが……忘れないでください。あの者が口にした“均衡”は、ただの妄言ではありません」
「どういうこと……?」サティが問い返す。
クラウディアは一瞬、答えを躊躇した。
だが結局、言葉を選びながら続ける。
「均衡とは、世界に課された理。ひとつを倒せば、ひとつが芽吹く。……黒幕の討伐は確かに成された。しかし、その座を埋めようとするものが必ず現れる」
サティは唇を噛みしめる。
つまり、戦いはまだ終わっていない。
黒幕は倒した───けれど、それは大きな流れの“始まり”に過ぎないのだ。
ルリが不安そうにサティを見つめる。
「……また、戦わなきゃいけないの?」
サティは彼女の手を握り返し、静かに答えた。
「ええ。でも……今は一度、戻ろう。皆が待ってるから」
クラウディアも頷く。
「ルメリアでの役目が残っているでしょう。次の嵐が来る前に、力を整えることです」
───そして彼女たちは、森を後にした。
朝日が昇り、長き夜を越えた旅路の終着が照らされていく。
サティとルリは歩みを進めながら、これから待ち受ける未来を胸に刻んだ。




