祭壇崩壊
───大地が震えた。
サティの影が祭壇を締め上げるたび、石造りの古代構造は軋み、赤黒い光を噴き出す。
ひび割れが広がり、空へ伸びる虚空の裂け目も揺らいだ。
「やめろ……!」
黒幕が瘴気の剣を突き立てる。
祭壇の紋様が再び輝き、砕かれるはずの石が再生を始める。
「壊すことなどできん! 祭壇は“均衡”そのもの……お前の力では届かぬ!」
「いいえ……私の力じゃない」
サティは静かに呟く。
影の中から、ルリの光が差し込む。
「───《光封陣》!」
ルリの祈りの光が、影の鎖に沿って祭壇へと流れ込んでいく。
「影と光……相反する力を……!」
黒幕の声に焦りが混じる。
サティは杖を振り下ろし、力を重ねた。
「これは、私たち二人の力! 未来を閉ざさせはしない!」
───轟音。
祭壇を覆う影と光が爆ぜ、赤黒い光が押し潰されていく。
虚空の裂け目が縮み、耳障りな悲鳴のような音を上げた。
黒幕は必死に瘴気を呼び起こし、両手を広げる。
「ならば世界ごと……滅びるがいい!」
瘴気の奔流が一気に解き放たれ、森を覆い尽くす。
「───させない!」
サティは自らの影を全身に纏い、暴食の力を完全に解放する。
空間を呑み込み、瘴気を引き裂き、黒幕の魔力を食らい尽くす。
「お……おのれ……ッ!」
黒幕の声が掻き消される。
瘴気が引き剥がされ、外套が崩れ落ち、祭壇との繋がりが断たれていく。
──そして。
祭壇が、ついに崩れ落ちた。
虚空の裂け目も消滅し、古代の森には重苦しい静寂が戻る。
サティは杖を支えにして膝をつき、荒い息を吐いた。
「……終わった……の?」
ルリが駆け寄り、彼女の肩を支える。
「サティ……大丈夫……!」
その時。
崩れた祭壇の瓦礫の中から、かすかな声が響いた。
「……終わりではない。均衡は……必ず揺り戻す……」
黒幕の影が、瓦礫の中でまだ蠢いていた。




