扉
───黒幕の剣が振り下ろされる。
空間そのものが捻じれ、避けようとしたサティの足元が歪み、逃げ道を塞がれる。
「……っ!」
反射的に杖を突き出し、暴食の力を展開。
歪んだ空間に影を溶け込ませ、力ずくでねじれを喰らい尽くす。
――ズズズ……ッ!
耳障りな音とともに空間の歪みがほどけ、押し潰されそうになっていた圧が一気に消えた。
黒幕の瞳がわずかに揺らぐ。
「空間を……食っただと?」
サティは荒い息を吐きながらも、杖を構え直す。
「私の力は“奪う”んじゃない。未来を繋ぐために“喰らう”のよ!」
影が地を奔り、黒幕の足元から無数の杭となって突き出す。
「───《影杭穿》!」
黒幕は祭壇の瘴気を呼び起こし、渦を作って防御する。
杭と瘴気がぶつかり合い、爆発が森を揺らす。
ルリが必死に結界を張り、衝撃から身を守りながら叫ぶ。
「サティ! 祭壇そのものを……!」
そう、黒幕は祭壇と繋がっている。
いくら攻撃しても力を補充されるだけ。
勝つには───祭壇との繋がりを断ち切るしかない。
サティは唇を噛む。
「……なら、祭壇ごと――!」
影が大地を這い、祭壇に絡みついていく。
だが黒幕は一歩前に出て、その行動を阻むように剣を翳した。
「祭壇を壊そうとするなら――世界が耐えられぬぞ!」
「それでも……!」
サティの声が震える。
彼女の胸中には迷いがあった。
祭壇を壊せば、均衡が崩れる危険がある。
けれど壊さなければ、黒幕は“扉”を開いてしまう。
その迷いを見透かすように、黒幕が嗤った。
「選べ、サティ。己の信じる正義か――それとも世界の均衡か」
杖を握る手に力がこもる。
影が唸りを上げ、祭壇を締め上げる。
ルリの祈りが背を押す。
そして、クラウディアの静かな声が心に響いた。
(───忍耐とは、立ち止まることではない。“迷いの中でも進む”ことだ)
サティは瞳を開き、真っ直ぐに黒幕を見据えた。
「私は───未来を選ぶ!」
彼女は影を祭壇へと解き放ち、黒幕と正面から衝突する。
───轟音が、古代の森を切り裂いた。




