それぞれの正義
───古代の森、中心。
幾重にも絡み合った木々が天を塞ぎ、昼なお暗い空間にひとつだけ開けた場所があった。
そこにあったのは、苔むした石の祭壇。
黒ずんだ文様が表面を覆い、まるで生きているかのように脈動している。
空気は重く、吐く息すら瘴気に溶けそうだ。
「……ここ、が……」
ルリが息を呑む。
彼女の白い指先が光を宿し、迷わせる幻影を払いのけてきたが、もう導きは必要ない。中心は一つ、ただ目の前にある。
そして、その祭壇の前に───黒い外套を纏った影が立っていた。
「来たか。サティ・フライデー」
低く響く声。
フードの下からのぞくのは、人か魔か判別しがたい冷たい双眸。
サティは静かに歩み出る。
「あなたが……黒幕、ね」
影は薄く笑った。
「黒幕……面白い呼び方だ。だが、ただ操っていたわけではない。この世界そのものの仕組みを正すためだ」
「正す? 人を犠牲にして、何を正すっていうの?」
サティの声は冷たいが、芯に怒りがあった。
黒幕は祭壇に手をかざす。
赤黒い紋様が一層強く光り、空間が軋むような音を立てる。
「犠牲とは、力の代償だ。世界は常に均衡を求める。お前が奪った力───暴食すら、その均衡を乱している」
その言葉に、サティの瞳が揺れる。
だが、迷いを振り切るように杖を握りしめた。
「だからって、許されることじゃない。ここで止める」
───緊張が張り詰める。
祭壇を背にした黒幕と、杖を構えるサティ。
瘴気が渦巻き、木々が呻くように軋む中、二人は真正面から相対した。
「来い。お前の力が本物かどうか、試してやろう」
黒幕の外套が広がり、黒い魔力が奔流のように噴き出す。
サティは深く息を吸い込み、前へと踏み込んだ。
───森の祭壇にて、ついに直接対決が始まろうとしていた。




