闇の残滓
森の静寂の中、サティは闇の残滓を見つめながら歩を進めた。
影の残り香───ただの魔力ではなく、どこか人間的な“気配”が混ざっている。
(……この感覚、知ってる……けど……)
ルリがそっと声をかける。
「どうする? 追う?」
サティは首を振る。
「今はまだ……無理に追えば、黒幕のペースになる。まずは、この残滓から手がかりを探す」
サティは暴食のスキルで、闇に残された痕跡を少しずつ吸収して解析する。
その中に、僅かに浮かぶ「声の断片」「気配の揺らぎ」「動作の癖」。それは、以前接触した何者か───知性を持つ魔族でも人間でもない、しかし感情の痕跡がある存在。
「……思ったより、複雑な存在ね」
サティは唇を噛む。黒幕は単なる敵ではなく、サティの過去や仲間との接点まで熟知している可能性がある。
「ルリ、この痕跡を頼りに行けるのは、この森の奥。安全とは言えないけど、何か手がかりがあるはず」
ルリはうなずき、二人は慎重に森の奥へと進む。
やがて、小川のせせらぎが聞こえる開けた場所に出る。
そこには、不自然に石が並べられた祭壇のような場所があった。
「……これは?」
サティが触れると、石の表面に魔力の痕跡が浮かび上がる。黒幕の残した“意図的な印”───単なる痕跡ではなく、彼女を導くためのメッセージのようだった。
その瞬間、サティの頭の中に断片的な声が蘇る。
「……サティ……覚えているかしら……」
声の微かな響きに、彼女の胸はざわめく。
(……知っている……この声……私、確かに……)
断片的ではあるが、黒幕の正体への糸口──過去の接点、感情、そして狙い。すべてが少しずつ見えてきた。
サティは深く息を吸い、決意を固める。
「……次に会った時は、絶対に私が主導権を握る」
ルリが小さく笑みを返す。
「なら、私も全力でサティの背中を守るわ」
森に残る闇と光の中、二人の決意は静かに、しかし確実に、黒幕との次の対峙へ向けて結晶していった。




