手がかり
洞窟を抜け、サティは慎重に周囲の森を見渡した。闇の中、微かに漂う気配――ただならぬ存在感が、彼女の感覚を刺激する。
「……やっぱり、誰かいる」
ルリは後ろからそっと声をかけた。
「気をつけて、サティ。ここまでくると、普通の盗賊や魔物じゃないわ」
そのとき、闇の奥から低く、冷たい声が響いた。
「よく来たわね……サティ・フライデー」
闇の中に浮かぶのは、姿形のはっきりしない影。だが、その存在感は、これまで遭遇したどの敵よりも重かった。
「……あなたが黒幕……?」
影は軽く笑った。
「黒幕と呼ぶには、少し大げさかもしれないわね。私は、ただ計画を動かしているだけ。あなたがどれほど成長したか、見せてもらおうと思ってね」
サティは拳を握る。暴食のスキルは準備万端、だが相手の力量は未知数だ。
「……なら、見せてやるわよ。私は、誰にも止められない」
影がわずかに形を変え、周囲の空気がねじれるように揺れた。
「ふふ、楽しみね。さあ、始めましょう……」
その瞬間、森は静寂を失い、闇の中で黒幕とサティの心理戦、そして力比べが幕を開けた。
***
森の闇は濃く、月明かりさえ届かない。
サティはルリの横で呼吸を整え、全感覚を研ぎ澄ませる。
「……来ているのはただの影じゃない。何か知性がある」
ルリも低く呟く。闇の中に潜むのは、ただの魔物や盗賊ではないことは明らかだった。
「ふふ、鋭い感覚ね。やはり期待通り」
影がわずかに形を変え、黒いマントの輪郭が浮かび上がった。声は柔らかく、しかし氷のように冷たい。
サティは考えた。黒幕は、今までの出来事をすべて演出していた───影の核、魔国の混乱、仲間たちの行動。だとすると、計画の全貌はまだ見えない。
「あなた、ずっと私たちを監視していた……?」
「監視というより、誘導かしら。あなたが本当に力を発揮できる瞬間を、私は待っていたの」
サティは微笑むふりをして、心の中で計算を巡らせる。
黒幕は自分の暴食の力を見極めようとしている。しかし、この場の地形と森の闇、そしてルリとの連携を活かせば、罠を逆手に取れるはず。
「なるほど……試すつもりね。だったら、私も応えてあげるわ」
そう言って、サティは影の位置を読んで動く。黒幕が放った幻影を暴食の力で吸収し、逆に幻影を使って黒幕の視界を攪乱する。
影は一瞬たじろぐ。
「……ふふ、なるほど。やはりただ者ではない」
声のトーンに、わずかに驚きが混じった。黒幕の正体にはまだ触れられないが、力と精神の両方で揺さぶられていることは確かだった。
サティは戦いながら、次の計画を立てる。
黒幕の力の特性、心理の動き、そして森の有利な地形───すべてを使えば、次の一手で逆転できるかもしれない。
闇の中、二人の戦いは静かに、しかし確実に、心理戦と実力戦の両面で加速していった。
そしてサティは、黒幕の正体に近づく手がかりを、確実に掴みつつあった。




