黒幕の存在
薄暗い洞窟に静寂が戻る。
頭領の魔力が掻き消えた瞬間、サティは深く息を吐いた。周囲には焦げた大地と砕け散った魔法の残滓だけが残っている。
「……終わった、か」
呟いた直後、枝を踏みしめる足音が近づいてきた。
「サティ!」
駆け寄ってきたのはルリだった。衣服の袖は裂け、肩に血がにじんでいる。それでも表情は勝ち気な笑みを浮かべていた。
「頭領は片付けたよ。さすがに手強かったけどね」
「無事で良かった」
ルリの背後からは、仲間たちも続々と姿を見せる。皆それぞれに傷や疲労の色を濃くしていたが、確かな達成感を滲ませていた。
「手下どもも散り散りに逃げ出しました。残ってるのは捕虜にできます」
「ふん、もう二度と悪さはできないだろうな」
仲間たちが口々に報告する中、サティはわずかに眉をひそめる。頭領の最後の一撃に込められていた“異質な気配”が脳裏を離れなかったのだ。
(あれは……ただの盗賊の魔法じゃない)
勝利の余韻に包まれる一行の中で、サティだけが静かに次の影を見据えていた。
***
洞窟を出て森を抜けると、焚き火の明かりに包まれた村の広場が見えた。
解放された村人たちは、戻ってきたサティたちを見つけるなり歓声をあげ、次々と駆け寄ってきた。
「助けてくださって、本当に……ありがとうございます!」
「頭領も倒してくれたんですか? これで安心して眠れる……!」
感謝の声と涙に迎えられ、一行は温かな食事と酒で祝われる。村人たちが差し出した素朴な料理の味は、疲れ切った身体に染みわたった。
「ふぅ……生き返るね」
ルリは椀を空け、満足げに笑う。仲間たちもそれぞれ杯を掲げ、勝利を喜び合っていた。
しかし───。
サティだけは、杯に映る炎の揺らめきから目を離さなかった。
頭領の最期、確かに感じた異質な力。まるで別の存在に操られていたかのような……。
「……まだ、終わってはいない」
サティの呟きに、隣で食事をしていたルリが顔を上げた。
「ん? どういう意味?」
「頭領の力、あれは普通じゃなかった。背後に……もっと厄介な何かがいる」
その言葉に、ルリの表情から笑みが消える。
「……やっぱり、そう感じてたんだ」
歓声と笑い声に満ちる広場の片隅で、二人だけが次なる影を予感していた。




