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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第2章 ダンジョン攻略編

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七つの美徳

「……美徳因子を、私が“食べれば”殺さないで済む」


静かに、だが確信を持った声でそう告げた私に、目の前の少女――《純潔》の美徳を冠するマリサ・クラーネットは目を細めて言った。


「そんなことは不可能です。美徳因子は――選ばれし者にしか扱えません」


その声は静かだったが、自信と誇りに満ちていた。自分こそが選ばれし者だと信じて疑わない者の声。


「不可能かどうかは、やってみないと分からないでしょ」


私は一歩踏み出す。背に剣はなく、構えるのは己の内に宿る力。


「スキル《大罪》暴食・"因食"」


地面が軋む。空間が捩れる。

スキルが発動した瞬間、世界の色が淡く、黒く滲んだ。


「なっ……なんだその力は……!」


マリサの顔に、初めて恐怖が浮かんだ。


「さては、あなた……“賢人候補”か!?」


「なによそれ。また知らない言葉が出てきたわね……」


“美徳”、“賢人候補”……意味のわからない単語が次々と押し寄せ、頭が混乱しそうになる。だが、今は迷っている時間などない。


私はマリサへと手を伸ばす――


「あなたの因子、いただきます」


叫ぶようにして、因子を引き剥がす。

その瞬間、眩い光とともにマリサの身体から、白く輝く粒子が溢れ出した。


「くっ……この私が、こんなあっさり……」


意識を失い、膝から崩れ落ちるマリサ。

彼女の“因子”は、完全に私の中へと取り込まれていた。



* * *


「サティさん、終わったんですか?」


ティナの不安げな声が耳に届く。


「えぇ……もう少しで、目を覚ますはずよ。死んではいないわ」


「そうですか……良かったです」


私はマリサをそっと背負い、仲間たちと共にダンジョンの奥から地上へと戻る。



* * *


ギルドに戻った私たちは、探索と討伐の報告を済ませた後、町内のレストランへと足を運んだ。長い戦いのあとの、束の間の安らぎ。4人での食事は、どこか温かく、心地良い時間だった。


その最中――ティナが切り出した。


「サティさん。私たちで、正式にパーティを組みませんか?」


エミリも、ユリアも、真剣な顔でこちらを見ている。


私は少し考え、微笑みながら首を振った。


「誘ってくれるのは嬉しいけど……最近、ちょっと忙しくてね。今は難しいかな」


今日のマリサは“七つの美徳”の一柱だと言っていた。

ということは、少なくとも、あと六柱がこの世界にいる。

彼女たちにこれ以上、命のやりとりに巻き込みたくない。


「……分かりました。じゃあ、もっと成長してから改めて勧誘しますね」


「うん。楽しみにしてるよ」


その夜、私たちは笑顔で食事を終え、それぞれの帰路についた。


外の空気は、少し肌寒くて、どこか現実を突きつけてくるようだった。


だが――


私の中には、確かに“力”が宿っていた。

《大罪》と《美徳》、交わってはならぬ二つの存在。

その渦中に、私は今、立っている。

ダンジョン攻略編終幕。

次回、新章突入。

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