出発点
背後にそびえる城壁が、少しずつ小さくなっていく。
振り返れば、まだ朝の光を受けて白く輝く王都が遠くに見えた。けれど、それはもう彼女たちの「帰る場所」ではなく、「出発点」だった。
街道は緩やかに続き、両脇には黄金色の麦畑が風に揺れている。夏の匂いを含んだ風が頬を撫で、サティは深く息を吸い込んだ。
「……空気が違うね」
「はい。王都は活気に満ちてますけど、外は静かで、広い」
隣を歩くルリの言葉に、サティは小さく笑う。
門を出てすぐは、行商人の馬車や旅人の一団が道を行き交っていたが、少し進むと人影もまばらになった。
鳥の声と草を渡る風の音だけが響き、世界が広がったように感じられる。
「ここから先は、私たちだけの旅ね」
「ええ。……でも、ちょっとワクワクします」
ルリの瞳には不安よりも期待の光が宿っていた。
サティはその横顔を見て、心の奥で静かに誓う。
この先に何が待っていようと、守り抜く。彼女と共に歩む旅を。
街道はやがて森へと続いていた。
木々の影が差し込み、ひんやりとした風が二人を迎え入れる。
王都を離れた二人の旅は、こうして静かに始まった。




