王都観光
城下町を出てから数日後、私たちはエルディナ王国の中心都市──王都エリュシオンへと足を踏み入れた。
高くそびえる城壁は白亜の石で作られ、陽光を受けてきらめいている。街の門をくぐれば、そこはまさに活気と文化の中心だった。
「すごい……! 建物の作りも街並みも、今までの国と全然違う」
思わず感嘆の声が漏れる。石畳の広い大通りの両 脇には、色とりどりの布を張った露店が並び、人々の笑い声や呼び込みの声が絶えない。
エルディナ王国は“芸術と学問の国”と呼ばれており、街の随所に大理石の彫刻や噴水が飾られている。
通りを歩けば楽器の音色が響き、広場では劇団が即興の演劇を披露していた。
「ここが……エリュシオンの中央広場か。王国最大の市も、ここで開かれるんだよね」
仲間が地図を広げて説明する。
王都観光の見どころは大きく三つあった。
天空図書館:学者や魔術師が集う知識の殿堂。世界中の書物や古代文献が保管されている。
光華大聖堂:国民が信仰する“黎明の女神”を祀る大聖堂。白い尖塔が空を突き抜けるように建っていた。
王城エルディナス:王族が住まう壮麗な城。観光客には一部が開放され、玉座の間を遠くから見学することもできる。
「さて、まずはどこに行こうか?」
王都の地図を手に、私たちは顔を見合わせた。
学者肌の仲間は図書館に行きたそうにしているし、信仰心の篤い仲間は大聖堂を見たいと目を輝かせている。私は……城の中を歩いてみたい。
***
「じゃあ、まずは天空図書館に行ってみない?」
そう提案すると、学者肌の仲間が嬉しそうに目を輝かせた。
王都の中央区を抜けた先、丘の上に建つ大きな建物が見えてきた。
空に向かって伸びる塔をいくつも備え、外壁には古代文字が刻まれている。
それが──天空図書館。
扉をくぐれば、思わず息を呑んだ。
天井まで届く巨大な本棚が何列も並び、光を受けて淡く輝く魔道灯が静かな空気を照らしている。
どこからともなく漂ってくる古書の香りが、心を落ち着けた。
「わぁ……! 本当に“知識の海”だね」
「気になる書物を読んでもいいのかしら?」
館員に案内され、閲覧室に通される。
仲間は夢中で魔術に関する本を読み漁り、私は異国の地図や歴史の書を手に取った。
やがて外に出ると、図書館の丘からは王都全体が一望できた。
大聖堂の白い尖塔、王城の堂々たる姿、そして人々で賑わう広場。
「これぞエルディナ王国の中心」という光景に、自然と笑みがこぼれる。
次に向かったのは──光華大聖堂。
白大理石で作られた荘厳な建築、虹色のステンドグラス、静謐な祈りの声。
仲間は手を組んで祈りを捧げ、私はその光景をそっと見守った。
聖堂の中に差し込む光が、心を浄化していくようだった。
最後に訪れたのは王城エルディナス。
観光客に開放されているのは正門と庭園、そして玉座の間の一部。
黄金の装飾に彩られた大広間を歩くと、まるで自分たちが物語の登場人物になったような錯覚すら覚える。
「こうして見ると、旅もずいぶん遠くまで来たんだな」
「うん。いろんな国を巡って、でもここは特別だよね」
夕暮れ時。王城の高台から見下ろす王都は、まるで宝石箱のように輝いていた。
何も事件は起きず、ただ穏やかに、心に残る一日が過ぎていったのだった。
***
王城の庭園をあとにした私たちは、日が暮れる前にもうひとつの楽しみ──**夜の市**へ足を運んだ。
大通りは昼間よりもさらに賑わい、灯りに照らされた屋台がずらりと並んでいる。
香ばしい肉の串焼き、甘い蜜菓子、異国風の香辛料を効かせた料理。
どの屋台からも食欲をそそる香りが漂い、思わず足を止めてしまう。
「これ、美味しそう! 一つ買ってみない?」
「おう、俺はあっちの果実酒にしようかな」
仲間たちと手分けして買った料理を持ち寄り、広場の石段に腰を下ろす。
分け合いながら食べると、不思議とどれも格別な味に感じた。
楽団の奏でる音楽や、火を使った大道芸が夜空を彩り、祭りのような雰囲気に心が弾む。
「こうして旅先でみんなと笑って過ごせるのが、一番の幸せかもしれないね」
「うん。どんな景色より、この時間が宝物になるんだと思う」
やがて夜も更け、王都の街並みは星空とともに静かにきらめき始める。
宿へ帰る道すがら、私たちは何度も振り返っては、その光景を目に焼き付けた。
───エルディナ王国で過ごした観光の日々は、心に温かく刻まれる、忘れられない思い出となった。




