終幕
光の粒が空に溶け、静寂が訪れる。
足元の砕けた鏡は、いつの間にか滑らかな石畳に変わっていた。
サティは深く息を吐き、手の中の刃を消す。
「……終わった、の?」
その問いに答えるように、薄暗がりの奥から足音が近づいてくる。
「はい。あなたは自分に勝ちました」
セリーヌが姿を現す。紫の瞳は穏やかで、戦いの最中とは別人のような柔らかさを帯びていた。
「多くの者はここで心を折られます。偽りの自分は、最も信じてしまいやすい敵だから」
彼女はそう言いながら、サティの前に立つ。
その手がサティの胸に触れた瞬間、淡い光が広がった。
温かく、しかし背筋が伸びるような感覚──力ではなく、覚悟を刻む光。
「この力は、あなたが己を裏切らない限り、決して消えません」
セリーヌは微笑む。
「さぁ、次の道へ進みなさい。ここから先は、あなた自身が切り開くのです」
気づけば、修道院の奥にいたはずのサティは、もう外の回廊に立っていた。
扉は閉ざされ、二度と開く気配はない。
サティは拳を握りしめ、前を向く。
胸の奥には、新たに刻まれた確かな熱があった。
***
(回廊の外)
***
扉の向こうに戻ると、修道院の回廊には淡い朝日の光が差し込んでいた。
風が吹き抜け、どこか清々しい匂いがする。
「サティ!」
遠くから声が響き、仲間たちが駆け寄ってきた。
ルリは目を丸くし、少し心配そうにサティを見つめる。
「大丈夫……?」
サティは微笑み、力強く頷いた。
「うん。試練、終わった」
胸の奥に残る熱は、戦いを乗り越えた証。
偽りの自分に打ち勝ったことで、力だけでなく、覚悟までもが研ぎ澄まされていた。
ルリは驚き混じりに言う。
「……前より強くなったみたい。光が違う」
サティは軽く笑った。
「そうかもしれないね。でも、まだここからが本番」
空は高く澄み、遠くには次に向かうべき道が広がっている。
試練を経て得た確かな力を胸に、サティは一歩を踏み出す。
次に待つのは、未知の冒険──そして、己の成長を試すさらなる試練だった。




